冷暖房の利用効率が上がり、健康に良いだけではない
マンションの長寿命化にも役立つ外断熱改修(上)より続く
前号の本欄で多摩ニュータウンのビスタセーレ向陽台団地が、約15年かけて一歩ずつ管理組合の合意形成を積み重ね、コロナ禍の中で外壁・屋上等の外断熱改修を実施した事例を紹介した。外断熱改修は実施例が少ないこともあり、管理組合や区分所有者向けの情報が乏しい。そもそも内断熱と外断熱の違いも理解されているとはいいがたい。外気の暑さ寒さの影響が少ないため冷暖房の使用を抑え、二酸化炭素(CO2)の排出量削減に寄与するだけでなく、コンクリート躯体の劣化を防ぐことで、マンションの長寿命化にも役立つ外断熱の概要、効果と課題等を紹介する。
現在では高経年マンションの選択肢として、建替えの他に改修による長寿命化も積極的に推奨されているが、10年ほど前までは築30年を過ぎれば老朽化しているとみなされ、管理組合に建て替えの検討を勧める傾向があった。
外断熱が普及すれば、コンクリートの劣化の原因となる外気温の変化による膨張・収縮が抑制されるため、早期に建替えを勧める根拠がなくなり、マンションの長寿命化に寄与する。
外断熱のマンションが普及しない理由の一つとして、修繕工事が難しいと考えられていることがある。マンションの大規模修繕について豊富な経験を持つ建装工業が、「マンションライフの未来を考える」で外断熱マンションの大規模修繕工事の記録を公表している。それによると内断熱のマンションの場合は、工事に先立って外壁のタイルを打診し、反響音の違いでタイルがコンクリートの躯体から浮き、空気層のある部分を特定する。下地に密着せずに浮いているタイルの裏側には空気があるため、ここで打診音が反響し、浮いている箇所を判断することができる。しかし、外断熱マンションでは、空気を含んだ断熱材の上にタイルが張られているため、全ての場所で打診音が反響してしまい、浮き部を特定することができない。
そこで打診ではなく、タイルに付着力測定用のアタッチメントを取り付けてタイルを引っ張り剥がすことにより、タイルの付着強度を確認した。タイルの付着強度が基準に満たない箇所が確認されると、落下する危険性が高いと思われる部分については、全てのタイルを張り替えたという。
足場の設置についても内断熱マンションの場合は、足場の倒壊防止のために、建物外壁にアンカーを打ち込み「壁つなぎ」をするのが一般的だが、外断熱マンションではコンクリート躯体の外側に断熱材があるため、断熱材を貫通させてコンクリート躯体にアンカーを打ち込むことになる。外断熱材が欠損し、断熱性能を損なうため、アンカー撤去後に外断熱材を補填した上で、外壁仕上げを補修したという。外断熱マンションが少ないため、大規模修繕の施工例も少なく、工事を手がけることができる施工会社も少ない。施工会社が外断熱に対応する修繕技術を習得することも、普及に向けて大きな課題である。
2050年カーボンニュートラル達成にも寄与
マンションの長寿命化を推進するためには、建物管理の基本である長期修繕計画についての見直しも必要である。2008年の国土交通省が策定した長期修繕計画ガイドライン等の考え方は建物の共用部分を新築当初に近い状態に戻すことを主な内容とするための25~30年の修繕計画である。計画期間を超えた時期に大がかりな工事を想定していても、計画に反映されない。また、建物・設備等のハード面の計画であるため、管理組合運営等のソフト面での中長期的な課題の整理や、課題解決のための取組みは含まれていない。現在のように高齢化の急速な進行や喫緊の課題である地球温暖化対策といった、社会経済環境の変化に対応する内容は計画に反映させにくい。
こうした長期修繕計画を補完するものとしてマンション管理センターが長期マネジメント計画という考え方を公表。マンションのハード面だけでなく、区分所有者の高齢化等も視野に入れてマンションの将来を総合的に考えるための枠組みを提示している。
菅義偉首相が就任後初の施政方針演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。年限を明確に示してゼロにするとしたことは内外の評価が高い。しかし、これまで明確な削減目標の提示を躊躇してきたように、温室効果ガスの排出をゼロにすることは簡単ではない。とりわけ家庭部門は産業部門に比べCO²削減が難しい。外断熱マンションの新規供給や外断熱改修を、2050年カーボンニュートラル実現の具体的方策として検討する必要がある。
※本稿の作成にあたりNPO法人日本外断熱協会のご協力を得ました。
月刊マンションタイムズ 2020年12月号