少子高齢化に向かって次の一手―デベ各社が模索する新事業領域
不動産経済ファンドレビュー

(提供:不動産経済ファンドレビュー)分譲マンションの供給戸数がこの20年で3分の1まで急減している。急激な少子高齢化による人口・世帯数の減少期に入っており、分譲マンション事業に関しても今後マーケットの縮小がさらに加速していくことが懸念される。そうした中、デベロッパー各社は他業種とのコラボにより不動産ビジネスの領域を拡大したり、付加価値の追求など、新しい事業領域へのチャレンジを試みている。各社の取組みを見る。


次世代に向かって始まる新しい取り組み
マーケットの変化を引き起こす人口動態

 コロナ禍前の2019年でもデベロッパー各社は縮小する分譲マンション事業をカバーするために様々な新しい事業への領域拡大にチャレンジしていた。大手デベは圧倒的な資金力と超低金利を背景に、投資・ストック・ロングスパンな事業領域に舵を切っており、中堅デベは、回転重視の事業領域の拡大に徹底的に取り組んでいた。これらの事業の中で、賃貸マンション開発や再開発事業、地方開発事業、シニア向け事業、海外事業等に関しては、現在も引き続き積極的に取り組んでいる。ただ、コロナにより、ホテル、オフィス・商業ビル開発等に関してはスローダウン、物流・倉庫開発事業もやや一服感がある。また中古の買取再販(リノベーション)事業も仕入れ価格の高騰によりやや難しくなっている。コロナ禍も4年目に入り、2019年当時の事業ポートフォリオに関しては様々な取捨選択が行われており、さらに次のキーワードとなる「SDG’s」に関連する事業など、次の時代に向けて新しい取り組みも始まっている。
 マンション市場を取り巻くマーケットの変化を引き起こす1つの要因は、人口動態だ。足元でマンション一次取得層のボリュームが大幅に減少。1960年代は団塊世代(1947~49年生まれ)が10代前半でボリュームゾーンとなっており、人口ピラミッドがピラミッドの形をしていた。1980年代には団塊世代が30歳代となり、1980~90年代は団塊世代が住宅マーケットを牽引している。2000年代に入ると、団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)がマーケットを引き継いだ。問題はここからで、団塊ジュニア世代が50歳代に入った2020年代中盤になると、その下の世代からは急激にマーケットが縮小。2022年の年齢構成で見ると、メインターゲット(30~40歳代)のボリュームが25%まで減少。日本社会は全産業が高齢化と向き合ってマーケットを開発していくことが必要となってきている。
 2020年の平均寿命は81.5歳と、40年間で8年以上伸びている。それに伴い、企業の定年年齢も延びており、シニアマーケットの拡大が期待される。平均寿命の伸長と共に高齢化が進み、高齢夫婦・高齢単身者が増加し、50~60歳代でのマンションの住み替えニーズの拡大、高齢者住宅のニーズの増大、後期高齢者の生活サポートのニーズ拡大が見込まれている。
高齢者だけでなく、マーケットのメインターゲットは、1~2人の少人数家族が見込まれている。内閣府の白書によると、50歳時の未婚割合が想定以上に急速に増加しているほか、出生率は2020年1.33人まで低下。これらにより、当面シングル・DINKS等の小家族世帯の増加は続くと予想される。
 こうした社会背景にあって、デベロッパーは多くの新しい取り組みを手掛けている。調査会社のトータルブレインが20事業を掲げて分析を試みている。その1つが都市型データセンター事業。アクセス性・利便性の向上を目指し、品川・丸の内、大手町他でニーズが高まっている。NTTデータ等の通信事業者に加え、東急不動産、三菱地所、大和ハウス他が取り組んでいるが、ダイワハウスでは第7次中期計画で、データセンター・物流施設開発等、生活インフラ整備を掲げており、ブランド化し印西エリアに引き続き、港区港南で建設中。サンケイビルも大阪東梅田地区で開発する。
ホテル事業では、三井不、三菱地所、住友不動産、野村不動産といった超大手から、東急、小田急、相鉄、阪急阪神、京阪、近鉄、西鉄等の電鉄系の不動産会社はもちろん、タカラレーベン、トーセイ、フージャースコーポレーション、アーバネットコーポレーション等の独立系デベも取り組んでいた。コロナにより一度落ち込んだ業績も回復してきており、再びホテル事業は加速すると見られている。
 海外不動産事業は、大手では三井不、三菱地所、東急不がほぼ同時期に事業をスタートし、すでに事業開始から50年以上が経過、事業エリアも欧米から中国・東南アジア・オセアニアと世界各国で取り組んでいる。野村不は2016年からの比較的新しいが、海外事業への投資額を3000億円から5500億円に増額し、アメリカに事業エリアを拡大、海外事業を積極展開している。タカラレーベンも2018年より、ベトナム・タイを中心に開発事業を行っている。日鉄興和不動産も海外事業のスタートは早かったが、2012年以降海外事業を再開している。西鉄・阪急阪神は2015年から海外事業に取り組んでいるが、すでに西鉄は18案件を展開、阪急阪神も5カ国・4万4000戸の分譲実績があり、海外事業を重点戦略として積極展開している。大和ハウスはスタートが1961年と非常に早く、中期計画でも海外事業が重点テーマの1つであり、5年間で25カ国の海外事業の売上高1兆円を目指す。相鉄不や伊藤忠都市開発も、タイ・バンコクで現地企業と合弁で分譲マンション事業に取り組み始めている。

避けて通れない新事業領域への拡大戦略
デベが取り組むべき課題と求められる役割多い

 マンション市場の縮小に伴い、デベ各社の「新しい事業領域への拡大戦略」は、避けては通れない大きな課題となっている。それと同様に分譲マンション事業自体においても、人口動態やライフスタイルの大きな変化に伴い、新しいマーケットの開拓・創造が必要となってきている。これまでも時代の変化に合わせたシングル・DINKS向けのコンパクト市場を開拓するなど、マンション業界は新しい市場を切り開いてきた。足元でマーケットの主役は50歳以上のシニア層で、定年延長により50~60歳代も現役世代となり、それに伴いマンションターゲットも50~60歳代まで広がっていくかもしれない。「人生100年時代となり50~60歳代にも住み替えを中心としたマーケットニーズが期待できるようになる可能性は非常に高い」(杉原禎之トータルブレイン副社長)。また75歳以上のシニア向けケア付きマンションのニーズもますます高まっていくことが予想され、マンション事業に関しても、新しいマーケットを開拓していくことが必要となりそうだ。
 さらに社会構造の変化によって、今後デベロッパーの守備範囲・役割も大きく変化していく。SDG’Sへの貢献や、ヘルス・ウェルネス・アート他、生活に密接する業界とのリレーション強化、ホテルや観光資源とのタイアップ等による地方やインバウンドマーケットの開拓、スモールオフィスやわーケーションといった新しいワークスタイル需要への対応、スタートアップ企業のサポート、地方都市や地域の再生・活性化等、住宅という箱の提供のみならず、新しい生き方や働き方、持続可能な社会づくり等に住まいづくり・街づくりの面から、「生活・社会創造産業」としてのデベロッパーの果たす役割は非常に大きい。もちろん、足元では、本丸である分譲マンション事業に関しても、新しいマーケットニーズに対応する商品を生み出し、マンションの魅力をどう工夫して差別化していくのか等、デベロッパーが取り組むべき課題と求められる役割は非常に多い。

不動産経済ファンドレビュー https://www.fudousankeizai.co.jp/publicationCatelist?cateId=5&id=22

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