不動産テックがもたらすインパクト 全面解禁されたオンライン取引の行方(上)
不動産経済ファンドレビュー

今年5月に解禁された不動産のオンライン取引(デジタル化)の行方に関心が集まっている。投資用や賃貸借契約から徐々に普及が進むのではないかと見られているが、新築マンションや戸建て分譲住宅の販売でも積極的な動きが始まっている。また、ウェビナー(Webセミナー)やメタバースの急速な進化も注目される。メタバースを新たな販路とすることで、不動産業界のイメージが大きく変貌していく可能性もある。

全分譲物件に電子契約を導入し始めた大手デベ 現段階では本人確認を慎重に行うために対面で

 大手デベロッパーは新築マンションや戸建て分譲住宅のオンライン販売に取り組み始めた。コロナ下でなかば強制的に普及した非対面営業の流れが、今年5月から解禁された不動産取引書面の電子化で一気に加速し始めた格好だ。特に目立つのが売買契約の電子化で、従来の書面による契約との選択制では8~9割の人が電子契約を選択しているという。

 その主な理由としては、印紙税(5000万円の物件で3万円)が掛からないことや、書類がデータ化されるため保管しやすいことなどが挙げられている。ただし、どの企業も現段階での「電子契約」手続きについては、本人確認を慎重に行うため原則として対面としている。しかし、将来的には事前案内から申し込み登録、IT重説、売買契約、入居説明会までの一貫した流れをすべてオンライン化していく方針だ。すでに電子契約後の覚書締結など一部手続きは非対面での対応を開始している企業もある。

 不動産取引のオンライン化については、「現物を見ないでの取引などあり得ない」という根強い意見があるが、考えて見ると青田売りの新築分譲マンションはもともと現物が完成する前に契約しているわけだから、完全オンライン化が最も実現しやすい市場ともいえるだろう。

 

賃貸借契約のオンライン化には契約標準化が不可欠

消費者が安心できる体制づくり急ぐべき

 仲介市場では賃貸借契約のオンライン化が早く進むと見られている。その理由は既にスマホで物件を探すスタイルが定着しているし、価格(家賃)も基本的には決まっているからだ。オンライン内見の技術進化もめざましい。残るは契約だが、売買に比べればその契約内容はかなり標準化されている。

ただし、中には原状回復など貸主の要望をかなり色濃く反映した契約も散見されるので注意が必要だ。業界が賃貸借契約のオンライン化を加速させたいのであれば、契約内容が国交省の標準契約と大きく異なる場合には、そのことを借主に率先して説明することを自主的ルールとしていく努力も必要だろう。同時に標準契約書の更なる普及に向けた努力も求められる。

オンライン化が業務の効率化を通して事業者側にもたらすメリットは大きい。それならば業界としても消費者が安心してオンライン取引の利便性を享受できるよう、体制づくりを急ぐべきである。

 不動産テックがもたらすインパクト 全面解禁されたオンライン取引の行方(下)へ続く

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