今年5月に解禁された不動産のオンライン取引(デジタル化)の行方に関心が集まっている。投資用や賃貸借契約から徐々に普及が進むのではないかと見られているが、新築マンションや戸建て分譲住宅の販売でも積極的な動きが始まっている。また、ウェビナー(Webセミナー)やメタバースの急速な進化も注目される。メタバースを新たな販路とすることで、不動産業界のイメージが大きく変貌していく可能性もある。
不動産テックがもたらすインパクト 全面解禁されたオンライン取引の行方(上)より続く
投資用不動産販売会社が注目するWebセミナー
講演会から個別相談、そして購入契約も可能に
投資用不動産販売会社のオンラインによるセミナー(ウェビナー)の活用が広がっている。従来の電話営業やメールなどによる訴求方法に代わる新たな販促ツールとしての期待が高まっている。ただ課題もある。これまでの一般的なウェビナーでは講師が登壇し一方的に情報を発信したあとは多少の質疑応答が行われたとしても、具体的な商談や成約に誘導することが難しかった。
しかし、最近はウェビナー技術が進化し、講師による講演終了後、高揚感が残っているうちにそのままオンライン上の個室での個別相談に誘導するシステムが開発されている。しかも、個室は10人分程度まで用意することができるので、それぞれの部屋には営業社員だけでなく、弁護士、税理士などが控えていて法律や税務相談をすることもできる。個別相談からそのままオンラインで売買契約(電子契約)に進むことも可能だ。
更に注目すべきはセミナーに親子で参加し、親子で個別相談をすることもできる。つまり東京にいる息子と地方にいる親が同時参加して、相続対策としての不動産投資を検討することも可能となった。もっとも、講演会終了後その日に契約するというのは、高揚感を悪用することにもなりかねないとの配慮から、あえてその日のうちの契約はしない方針をとっている会社もある。
VR、AR(仮想・拡張現実)が新たな販売チャネルに
メタバースは営業社員との気軽な接点に
ウェビナーが不動産取引オンライン化の完結に向かっているのに対し、話題のメタバースはあくまでも“Show‐Window”的活用が広まっていくと予想されている。分譲マンションのモデルルームやハウスメーカーの住宅展示場に取って替わる可能性もある。営業社員から1対1で説明を受けることに対し心的圧迫を感じる人も、他の客と同時に対話をしながらモデルルームを見学するのであればリラックスできる。
また、メタバースでは現実にはまだ存在していない住宅の外観や室内デザインを出現させ、顧客の反応を得ながら現実の市場に先行して商品を訴求することもできる。このように様々な工夫や新たな3Dサービスを展開していくことで、これまでの現実の店舗ではどうしても乗り越えられなかった顧客と営業社員との壁が自然に解消していくのではとの期待も高まっている。
オンライン化が注目される本当の理由
不動産DXの先にあるものとは
新築分譲物件が先行するかたちで始まった電子契約だが、仲介市場では賃貸借契約がリードするかたちで徐々に普及していく。売買仲介についても大手流通会社は“両手”仲介に限定して推進していく方針だ。言い換えれば中小不動産会社も含めた流通市場全般で見れば、売買仲介のオンライン化へのハードルはまだ高いともいえる。しかし、それは中小不動産会社がオンラン化という大きな流れの中で淘汰されていくかもしれない可能性を無視したものだ。
既に賃貸でも売買でも“住宅適齢期”が“スマホ世代”で完全に占められていることを踏まえればその可能性は無視できない。電子契約は分譲市場で始まったばかりだが、それを選択するユーザーがいきなり8~9割にも達していることがそれを物語っている。
おそらく、流通市場の売買仲介でもいずれオンライン化が加速していくと見るべきだろう。少なくとも大手不動産事業者の最終目標がそこにあるし、そこに向けたデジタル営業のリテラシーアップ努力も始まっている。業界がオンライン化を積極化させる理由は言うまでもなくそれによってもたらされるメリット(業務の効率化・生産性向上)が大きいことである。ペーパーレス化による事務作業や製本などのコスト削減効果は半端ではない。その恩恵をユーザーにどう還元すべきかが今後の課題となる。将来的な課題として大手企業が考えているのは、借り手・買主側の媒介報酬ゼロ化、更にその先にある媒介報酬自由化という大変革ではないだろうか。
2022/7/15 不動産経済ファンドレビュー