シリーズ;コロナ禍の人口移動、首都圏への流入続く① 麗澤大学経済学部客員教授・大東建託賃貸未来研究所所長 宗健氏に聞く
宗健氏

総務省の21年住民基本台帳人口移動報告によると、都道府県別で転入超過となった都道府県は東京都など10都府県だった。ただし東京都は転入超過数が最も縮小(2万5692人)。東京の人口が伸び悩む一方で、周辺各県は人口流入が続く。神奈川県,埼玉県,千葉県は転入超過で、茨城県,山梨県、群馬県については、前年の転出超過から転入超過へ転じた。地方では広島県,福島県,長崎県など37道府県が転出超過となり、沖縄県は前年の転入超過から転出超過へ転じた。コロナ禍で喧伝された地方移住とは何だったのか。東京と地方の人口動態、そして住むのに適した場所は都心か、郊外か。麗澤大学経済学部客員教授で大東建託賃貸未来研究所所長の宗健氏に話を聞いた。

 

人口の大移動は起きなかった

 コロナ禍も今年で3年目だ。その間、人との接触を極力抑えることが奨励されたが、人口の大移動は起きなかった。もちろん移動の中身の解釈は人によって異なるだろうが、テレワークできるから郊外へではなく、度重なる緊急事態宣言で、経済的なダメージを受けた人たちが、生活費を下げるために郊外へ移り住んだ。そういうケースが多かったのではないか。

 今回の住民基本台帳人口移動報告の結果にも表れているが、2021年の人口移動のポイントは、東京23区への流入の減少だ。東京は転入超過が縮小したが、その理由は東京から人が流出したのではなく、地方から東京へ出てくる人が減ったことによる。東京周辺の人口増の理由も、東京の人が移動したためだ。同様の事象はリーマン・ショックの時期にも、バブル崩壊後の時期にも起きた。経済的な要因というネガティブな理由が半分はあるのではないか。経済要因が理由であるから、コロナが収束すれば、一気に市況は回復する可能性が高い。オミクロン株が流行しているが、これまでの変異ウィルスと比べれば重症化リスクは少ない。緊急事態宣言が発出される状況にも見えない。そう考えると3月にもオミクロンはピークアウトし、東京への流入が復活する可能性があり、3月の人口移動報告の結果に注目している。

 東京一極集中は今後も止まらない。その理由は、ざっくり言えば、皆が東京を中心とする首都圏のことが好きだからだ。東京は過密で暮らしにくく、仕事のために仕方なく住んでいる、本来は郊外や地方に住みたいと思っているはずだ、という意見の人がいるが、それは違う。実は東京に住んでいる人は、東京が好きだから住んでいる。筆者が籍を置く大東建託賃貸未来研究所では「いい部屋ネット街の住みここち&住みたい街ランキング」を毎年発表しているが、このデータをみればわかる。居住満足度も幸福度も地方よりも都会のほうが高い。不便な場所に人は動かない。

 地域に必要な「適度な距離感」

 前提が違うのは国の地方創生政策も同じ。この政策の根底にあるのは「生活などの理由で仕方がなくて東京にいる」というものではないか。ここが大きな間違いであり、地方創生の出発点を再確認すべきではないか。なぜ都会へ人が流出するのか。答えは簡単だ。要は地方の濃密な人間関係が嫌いだからだ。東京へ来ればそうしたしがらみから解放される。とくに女性にその傾向が強いが、女性に限らず男性でもそうだ。地方を創生するかどうかは、その地元の人が決めることであって、国が決めることではない。そこの人は必要と思っているのか、極めて疑問だ。

 いわゆる「まちづくり」というものも虚飾に満ちている。地域との深い関わり方が殊更大事だとする「コミュニティ主義者」がいるが、地域とのコミュニケーションは本当に大事だろうか?「住みここち&住みたい街ランキング」によれば、地域における濃密な関係は嫌、というデータがはっきりと出ている。むしろ適度な無関心、適度な距離感を望んでいる。移住者を呼び寄せ、定着させたいならば、地域とは適度な距離感を保つことが大前提だ。コミュニティづくりで必要なものとして、地域交流の企画などもがある。ただし参加者にとってこれが「イベント」であるか、「行事」であるかは大きな違いだ。イベントはショーを楽しむだけで良いが、行事は義務で役割がある。本音として、イベントは欲しいが、行事は嫌なのだ。コミュニティ重視といっても 実際のところたまたま隣に住んだ人同士では仲良くはできない。それが素直な感覚だ。趣味が一緒とかであれば地域に関係なく一定のな繋がりを持つことができるが、地域単位では無理が生じる。こうした普通の感覚やデータに基づいて地方創生を考えるべきではないか。

 地域活性化のためにも一定量の住宅供給が必要

 地域活性化のためには一定数、よそ者を地域に入れることが大事だ。よそ者は旧住民と違う意見を持っている。元の住民が100人いて、そこに1人2人来ても普通はあまり変化はないが、10人20人と入れば確実に雰囲気は変わる。新住民が1人だけでは旧住民の同調圧力に屈するが、10人いれば自由に動くだろう。それでいい。地域に溶け込んでもいいが、溶け込まずに別集団を作ってもいい。新興住宅地がそうだ。新住民にとって地域のしがらみから距離を持てるから実に住み心地がいい。愛知・長久手町とか、熊本・菊陽町、福岡・新宮町などもそう。地方の高速のインターチェンジのさらに奥のニュータウンでもいい住宅地がある。

 何でもかんでも空き家を活用しようという意見には無理がある。日本全国の空き家は総務省の発表では800万戸あるとされるが、あくまで推計値だ。実際には800万もなく過大に推計されている可能性が高く、さらに除却が進んでいるのでその半分、400万戸は確実に下回っている。空き家問題は事実認識が間違っている。そもそも全国で空き家率を計ることにどれだけの意味があるのか。誰も住まないような限界集落などで空き家が発生するのはしょうがないことだ。その土地土地で考えるべきことだ。空き家には旧耐震基準で建てられた築古物件が多く含まれている。そのため人口が増えようが減ろうが、世帯数の1%程度の新規着工は今後も続ける必要があるのではないか。

シリーズ;コロナ禍の人口移動、首都圏への流入続く② 麗澤大学経済学部客員教授・大東建託賃貸未来研究所所長 宗健氏に聞く へ続く

コメントをどうぞ
最新情報はTwitterにて!

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめ記事