新型コロナウイルスの感染拡大により、管理組合の総会・理事会やコミュニティ活動で居住者らが交流するのが難しくなっている。マンションの長寿命化・再生に向けた合意形成や、世代を超えたマンションの活用などでコミュニティの重要性に関心が高まっていた中、こうした流れが停滞しかねない状況といえる。コロナの状況下で今後のコミュニティはどうなっていくのか。ここでは、マンション・団地のコミュニティ形成やエリアマネジメントの支援などを展開しているHITOTOWAに、現状での活動や今後のコミュニティについての考えを聞いた。
ひばりが丘団地で始めたオンラインの交流 的を絞った情報発信に効果
同社は現在、東京都西東京市と東久留米市に広がるひばりが丘団地でエリアマネジメントの取り組みを支援している。都市再生機構の賃貸住宅の建替えに伴い、複数の民間事業者が分譲マンションを建設しており、それらに入居した住民や管理組合、民間事業者らで構成する一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」が2014年に発足してエリアマネジメントを進めている。かつての団地の住棟を改修した活動拠点にコミュニティスペースやカフェ、菜園などを設け、地域のサークル活動などによる多世代交流を支えているほか、マルシェや餅つき大会などのイベント開催を支援してきた。同社は組織の発足当初から事務局の運営に参画。同社スタッフが務めていた事務局長をこの4月から住民にバトンタッチするなど、当初から想定していた地域住民主体の活動への移行もサポートしている。
新型コロナウイルスの感染拡大で、4月には拠点施設を休館とするなど、活動も縮小を余儀なくされた。こうした中での交流をつないだのは、4月末と5月半ばに開いたオンラインによる懇親会と集合住宅における新型コロナウイルス感染対策情報提供会だ。
4月のオンライン懇親会では、管理組合の理事など約20人が参加。住民の有志らを中心に声をかけ開催し、オンラインでコミュニケーションを取る試金石とした。ウェブ会議アプリ「Zoom」で4、5人のグループに分かれての懇談を行い、コロナで外出が不自由な状況だからこそ取り組んでいることなどを話し合った。これまでのイベントなどに参加してきた住民の出席が多く、「この懇親会をきっかけにZoomを体験しようとした高齢の方もいた」(細川氏)など、イベントを心待ちにする住民もおり、オンラインでもこれまでのコミュニティで築いてきた関係性や交流の大事さを再認識できるイベントとなった。
一方の情報提供会は、子育て世帯の住民が多数を占めたのに加え、イベントに初めて参加した住民も目立った。感染防止の情報をマンションに関するものに絞って発信したことで、管理組合の役員として感染症予防にどういった行動をとるべきか苦慮していた住民の関心を引き付けた面があり、的を絞った情報発信はオンラインによるコミュニケーションの新たな方法になるとも感じている。参加者の垣根を取り払うためには「外出自粛が続いていた期間で家族以外と話していない人もおり、肩慣らしを兼ねてまず声を出してもらう」(細川チーフ)ことを意識し、Zoomで参加者を4、5人に分け、最近の良かったことや嬉しかったことを全員が話す「good&new」と呼ばれるコミュニケーションの手法を採用して緊張をほぐした。その上で同社スタッフが集合住宅での感染症拡大防止のための情報を説明する翻訳家のような役目を果たすことで、活発な意見交換にもつながった。
参加へのハードル下げる一方 出席者同士の交流に課題
同社がコミュニティ活動などを支援しているほかの集合住宅でも、オンラインを活用した事例はある。川崎市にある神奈川県住宅供給公社の賃貸住宅「フロール元住吉」では、1階共用部に設けられた交流スペースを運営するのに加え、同社スタッフを「守人」と呼ぶ管理員として常駐させコミュニティをコーディネートしている。2月から始動したものの、コロナの影響を受けて守人も在宅勤務になり、メールなどで困りごとの相談に応じる程度の活動に制限された。そこで、タブレット端末をエントランスフロアに置き、守人といつでも話せる「オンライン管理員」という仕組みを導入。細川氏は「電話やメールでの相談は、何かが起こった時に限られてしまう。電話やメールをするほどでもないこともタブレット端末であれば話してくれる住民もいて、新しく引っ越されてきた方とのご挨拶や、ちょっとした困りごとの相談などを通じてつながりができるきっかけが生まれた」と一定の関係構築に役立ったとみている。
また、昨年末からイベントの開催を支援していたマンションでは、オンラインを通じたフラダンス教室を開催。リアルでの開催も行っていたが、オンラインであれば参加しやすいと新たに参加した住民も増えた。オンラインで理事会を実施したマンションでは、子供が泣いてもマイクをミュートにすれば迷惑にならないからとオンラインで参加した住民がおり、コミュニティに参加する心理的なハードルを下げた効果も実感したという。佐藤まどかシニアプランナーは「オンラインがコミュニティへの多様な入口をつくるきっかけになっており、普段参加できない人が参加できる機会になっている。Zoomなどのビデオ会議に限らず、LINEなど別のツールならば使えるという住民もいるので、幅広い視点で考えたい」と、と前向きにとらえている。
ただ、オンラインでの会議ではイベント参加者同士の情報交換ができないという課題も残った。細川氏は「対面のイベントであれば、席が隣り合った人同士で会話が生まれ、情報が水平展開する形ができたが、オンラインはそれがしにくい。予定したことを予定した通り進めるにはオンラインは向いているが、偶然が生まれにくい」とも感じている。ひばりが丘の情報提供会では、対象を絞って情報を伝えることで先入観や主観が強くなる面もあり、一方的な発信になっていたのではないかと反省点も挙げる。
コミュニティ本来の目的を問い直す必要も
今後は、オンラインで開催できることには活用しながらも、オンラインと対面のハイブリッド型を模索したいという。そのひとつが、多摩ニュータウンの団地商店街にあるコミュニティ拠点施設の取り組みだ。本来は今年4月に開業を予定していたが、新型コロナウイルスの影響によりいまだにオープンできていない。そんな中、団地商店街のお祭りをオンラインで開催することになり、ひとつのコンテンツとしてコミュニティ拠点の内部の様子を動画で紹介した。また、地域の方々に自宅生活を楽しんでもらうため、また拠点へ来場するきっかけづくりとして、「#うちでつくろう!みんなでアジサイの花を咲かせよう」を企画。拠点の屋外側の壁に折り紙とアジサイの折り方説明書を設置し、住民がそれぞれ家に持ち帰って作ったアジサイを再び拠点に持ってきてもらい、皆で大きなアジサイの花を完成させた。完成したアジサイはホームページに掲載することで、リアルの活動とオンラインの活動を連動させる考えもある。オンラインで生まれた交流のきっかけをリアルの交流につなげ、その活動をさらにオンラインに波及させるサイクルが生まれれば、地域やコミュニティ活動への関心もさらに高まると期待する。佐藤氏は「オンラインの活用は、住民構成などマンションの特性によって賛否が分かれると思われる。しかし、子育て中の人や障害を抱える人、出張中などで遠隔にいる人などの参加のハードルを下げるので、リアルとオンラインのハイブリッド型により、コミュニティへの多様なかかわり方を提案できるのが良いのではないか」と述べ、マンションの状況に応じたオンラインの活用も必要と見据えた。
一方で、細川氏は「オンラインを活用したことで、かえって対面の大事さもよく感じた」という感触も得ている。「エリアマネジメントやまちづくりの文脈では、これまでイベント開催によるにぎわいづくりが重視されてきた面があると感じる。準備などに人が集い、開催までこぎつけることで交流や一体感が生まれる効果もあるが、イベントの開催は本来そのエリアで共助の仕組みを生むための手段である。イベント開催の先にある目的達成のための重要性も再認識した」とも述べ、コロナがコミュニティを形成する意味を問い直すきっかけにもなった。コミュニティ形成がなぜ必要なのか、その実現のために必要な手段や、情報を発信していく方法や対象について、それぞれのマンションが改めて考える契機にするタイミングにある。
(マンションタイムズ 2020年8月号)