変革が遅れているといわれてきた不動産業界だが、既存住宅の流通市場では仲介システムの変革、それを担う真のプロフェッショナル育成など新たな動きが始まっている。DXやオンライン化による変革とは違う次元で、根強かった業界慣習から脱却する試みである。一方、新築市場では住宅史上最大のイノベーションを巻き起こす可能性を秘めた「3Dプリンター住宅」の登場が注目される。
マイホーム売買のイノベーション 仲介システムから人材育成、建設工法まで① より続く
「資格者」はプロフェッショナルなのか
セカンド・オピニオンが真のプロを育てる
信頼できるエージェント探しが本格化すれば、仲介を託すことができる本当のプロフェッショナルとはどういう人たちかが問われ始めることになる。不動産業界を代表する資格者は宅地建物取引士(宅建士)だが、わが国における国家資格は基本的に生涯資格である。宅建士も5年ごとの資格更新には法定講習の受講が義務付けられているが、それがプロとしての実力を保証しているとは言えない。
つまり、いったん資格を取得した者がその後もクライアントの信頼に応え得る能力を維持していくためには、日頃からのブラッシュアップが欠かせないし、更新要件の厳格化も必要だ。公益財団法人不動産流通推進センターが認定している「宅建マイスター」はそうした問題意識から生まれた資格である。不動産取引に内在するリスクを可能な限り予見し、緻密かつ丁寧な調査を行い、それを重説・契約書に反映し安全な取引を成立させる能力を有する者とされており、いわば「宅建士のエキスパート」という位置づけである。
そうした高い信頼を背景に、宅建マイスターの新たな業務として「セカンド・オピニオン」を規定しようという動きがある。セカンド・オピニオンは、買主が例えば「物件は気にいったが業者が不安、取引内容に懸念がある、他に気を付ける点は何か」などをクライアントの依頼に基づき意見を述べる仕事である。診断に対する対価は受領するが、取引そのものへの介在はしない。
クライアントの利益やその保護のためだけに働くセカンド・オピニオンという業務が流通市場で一般化していくことは、不動産流通業界に真のプロフェッショナルを育成することにつながっていくことが期待される。
「3Dプリンター住宅」の販売始まる
住宅は“高根の花”から、気軽な生活道具へ
一方、新築市場ではマイホームの価格革命という観点から、「3Dプリンター住宅」の登場が注目される。技術的にはまだ初期段階だが、ここにきてスタートアップ企業の取り組みが加速している。
セレンディクス(兵庫県西宮市)は今年3月、協力企業と共に建築基準法の適用を受けない9.9㎡の球体住居を、建設用3Dプリンターを用いて23時間で完成させた。8月にはグランピングや別荘用に一般販売する。ロボットアームが先端ノズルから柔らかいモルタル素材を吐き出しながら躯体を積み上げていく工法だ。コンピュータによる自動施工だから工期も職人の数も削減され、型枠も不要なため大幅なコストダウンが可能となる。建基法適用の本格的住居を建設するには鉄骨造またはRC構造にする必要があるが、同社はそのための技術もクリアしており、いずれ一般住宅を「100㎡・300万円」で実現する計画だ。
また、ポリウス(東京都港区)は建設用3Dプリンター自体の開発を進めているが、海外では数千万円が相場の3Dプリンターを今年中にも1000万円程度の価格で協力企業に販売する。
2日ほどあれば躯体部分が完成してしまう3Dプリンター住宅に最も関心を寄せているのは実はプレハブ住宅メーカーだ。プレハブも当初は物置小屋とか、小さな勉強部屋から始まった歴史がある。プレハブ住宅は価格革命を起こすことはできなかったが、3Dプリンター技術の進化は住宅を年収の何倍もの住宅ローンから解放し、生活を楽しむための気軽な道具へと変えてしまう可能性を秘めている。
2022/5/25 不動産経済ファンドレビュー