京都で寺院一体や京町家活用のホテル―三井不動産や東急不動産、宿泊施設を多様化

 国内でも指折りの宿泊施設集積地、京都でホテルの多様化が進んでいる。インバウンドの急増を受け、以前は民泊や宿泊特化型ホテルなどの開発が多かったが、最近では大手デベロッパーが「寺院と一体となったホテル」や、「町家建築を生かしたホテル」など歴史ある古都・京都の魅力を生かした宿泊施設を開発した。コロナ禍で大きく落ち込んでいた宿泊ニーズも回復基調にあり、紅葉シーズンを迎える11月の予約状況も好調だという。
 京都市内の中心街、京都河原町駅から徒歩1分に立地する「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」(167室)は、三井不動産と三井不動産ホテルマネジメントが9月28日に開業した寺院と一体開発したホテルだ。ロビーに入ると、まずお香の香りが宿泊客を出迎え、すぐ横の開口からは再建したばかりの浄教寺の本堂がうかがえる。本堂の灯篭や欄間は再利用されているほか、ホテル内の至る所でも歴史的保管物を利用したアートに触れられる。宿泊者は本堂を見学でき、「朝のお勤め」も体験可能だ。
 500年以上の歴史を持ち、約190年前に旧本堂を立て直した同寺はこれまで、檀家の関係者などしか訪れることはできず、一般には公開されていなかった。一方、近年では檀家離れが進み、伽藍の再建には外部の協力が必要となっており、三井ガーデンホテルと一体開発することで再建が可能になった。全国的にも珍しいケースで、三井不動産は「寺院再生」のモデルケースにしたい考えだ。
 建物としてもホテルと寺院は一体で、本尊の上部空間には建物を配置することができないため、その部分は吹き抜けとすることで寺院とホテルの共存が可能になった。客室は5タイプあり、特にトリプルベッドルームは「御朱印を集める女子旅などのニーズがある」(同ホテル)。畳の客室もあるほか、大浴場も備える。「寺のホテル」というコンセプトに惹かれ、リピーター客も既に付いているという。
 東急不動産は11月1日に、烏丸御池駅から徒歩5分の京都三条エリアの一画で、京町家を改修・増築した「nol kyoto sanjyo」(48室)を開業する。90年近く前に建築され、日本酒造のキンシ正宗が販売所として利用していた町家を宿泊者専用のラウンジとして活用。通りに面した町家の奥に増築する形でRC造地上5階建ての宿泊棟を整備した。

nol kyoto sanjyo


 レストランはあえて設けず、食事は京都三条などの飲食店を回ってもらうことで、京都三条という街に触れ、暮らすように過ごしてもらうのがコンセプト。朝食は仕出しで、老舗喫茶が提供する舞妓さん御用達の「おかもち」入りサンドウィッチか、12種のおばんざいを楽しめる和食から選べる。ラウンジでは6種類の日本酒がウェルカムドリンクとして提供される。
 全客室で木の香りを楽しめるヒバの浴槽を備えているのも特徴。京都を訪れる宿泊者は日中は徒歩で観光スポットを回っているため、旅の疲れを癒してもらうよう風呂にこだわった。客室のほぼ真ん中に浴槽を備えた客室もある。長期滞在にも対応し、全客室に電子レンジ、洗濯乾燥機、冷蔵庫などを設けた。
 町家は直近ではレストランとして使われていた。所有者が活用策を検討していたところ、東急不動産が町家保存を前提としたホテル開発プランを提案した。同社が30年間、定期借地し町家の補強も行った。ホテルの予約状況は順調で、土日はほぼ満室だという。

2020/10/28 日刊不動産経済通信

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