東京・下北沢 「サーバントディベロップメント」で支える新たなまちづくり 作家・五感生活研究所 代表 山下柚実

 最近しばしば耳にする「DX」という言葉。ご存じの方も多いかもしれないが、「デジタルトランスフォーメーション」の略で、ざっくり言えば「デジタル技術を浸透させ事業・生活を変える」といった意味合いだ。見回せばたしかにコロナ禍によってDX 化に拍車がかかっている実感がある。ウーバーイーツやメルカリといった新業態が拡大中だが、大人の知らないところでも急激な変化がある。
 「フォートナイト」(米・エピックゲームズ)をご存じだろうか。10 代を中心に世界3億5000 万もの登録者を擁し、最大4人と協力してゾンビを撃退する無料オンラインゲームだ。ソニーは「『フォートナイト』ほど革新的なエンターテインメント体験の例は他にない」(吉田憲一郎会長兼社長)として7月に2.5 億ドル(約268 億円)の戦略的出資を決定し注目を集めた。いったい何がそれほど魅力的なのだろうか?

新デジタルエンタメ市場が形成されていく

 ポイントは、ゲームに留まらない仮想空間の力にありそうだ。フォートナイトにはゲーム以外に、戦闘的な要素のない「パーティーロイヤル」モードがあり、人々が集うさまざまな仕掛けが凝らされている。今年4月、トラヴィス・スコットという人気ラッパーのバーチャルイベントが開催された際には、世界でなんと同時接続「1230万人」という驚異的な数字を記録した。あるいは日本で最も勢いのあるミュージシャン・米津玄師も8月にこの中でバーチャルライブを開催し話題を集めた。今後はフォートナイト内で「出会う」「友達とつながる」「イベントに参加する」「買い物する」といったことが日常化し、ゲーム・映画・音楽の市場が融合した新たなデジタルエンタメ市場が形成されるだろう。ソニーの投資もその将来性を見込んでのこととされる。
では、リアルの店舗やライブハウスや劇場はどうなのか? 路面店、商店街といった従来型の店に未来はないのか。コロナ禍の中、今後縮小の一途をたどるという悲観的な観測しかないのだろうか?

ヒューマンスケールの新商店街

 そんな疑問を抱きつつ9月末の週末、新たなまちづくりの現場を訪ねた。「BONUSTRACK」(ボーナストラック)という名の商店街がシモキタに誕生した、聞いたからだ。東京都世田谷区、下北沢駅と世田谷代田駅の間に小田急線の地下化によって空地が生まれ、その一部に「BONUS TRACK」が出現した。ボリュームを抑え一見家のように見える店舗が集まり新しい街角を形成している。本屋に飲食店、シェアオフィス、不動産屋などの商業施設・複合施設、住居に保育園、温泉旅館。今後は学生寮も誕生する予定だ。一階が店、二階が住居の構造もあり素材感、陰影、植生、奥行感すべてがヒューマンスケール。古い木造家屋の残る世田谷の住宅街に溶け込むようで、ほっと安らぎを感じた。

主人公は暮らし働く人 まちの個性を支援する新たな開発手法

 線路地下化に伴う「下北線路街」の開発主体は小田急電鉄だが従来のように大企業がディベロッパーとして巨大複合施設等を建設するのではなく、新たな手法を取った。キーワードは「サーバントディベロップメント」、まちの個性を「支援していく」開発方法だという。星野晃司小田急電鉄社長は「『サーバントディベロップメント』は造語に近いのですが、『支援型開発』というスタイルで取り組むことといたしました。この支援型開発においては、価値をもたらす主体は地域のプレーヤーの方々にあります。当社の役割は、地域の持つ本来の魅力をより引き出し、いろいろな人やもの・ことを繋げていくこととしています」と語っている(世田谷区長らとの共同記者会見 2019 年9月24 日)。

世界で突出してクールな街・シモキタをより輝かせるために

 「シモキタ」の愛称で知られる下北沢は、日本の中でも突出して個性的な街だ。ライブハウスや小劇場がひきめき合い、音楽や演劇のエネルギッシュな発信地として名を轟かせてきた。国際的情報誌『Time Out』が2019 年に発表した「世界で最もクールな街50」ランキングでは、なんと世界第2位に「シモキタ」が選ばれた。そう、異文化の人の心も掴む固有性があり、それが最大の観光資源でもある街。そんな個性を度外視し大資本が画一的な開発をするのではなく、「BE YOU. シモキタらしく。ジブンらしく。」というコンセプトに沿ってまちづくりが進む。小規模で分散していて自律的。人と人が和やかに集い、リアルでつながり肌合いを感じ、語りあう。先述した刺激的なデジタル空間とは対極的だが、やはりコロナ後のニュースタイルを担う試みとして注目したい。

2020/10/21 不動産経済FAX-LINE

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