シリーズ;コロナ禍の人口移動、首都圏への流入続く② 麗澤大学経済学部客員教授・大東建託賃貸未来研究所所長 宗健氏に聞く

シリーズ;コロナ禍の人口移動、首都圏への流入続く①より続く 

コンパクトシティは自然と形成されるもの

 全国的に地域の中心にあった商業施設、デパートが潰れている。しかし潰れるということは、地域の人から支持されていなかったということだ。他方で自動車でアクセスできる、郊外のショッピングセンターに人が集まっている。中心部のデパートがなくなり、マンションに再開発される事例が増えている。地方のマンション着工が2万戸程度を維持しているのは、地方の中心部の再開発が進んでいるからだ。だが地方で中心部のマンションを買える人は限られている。お金に余裕のある高齢者が買っていて、若い人はなかなか買えないから、郊外に家を持つことになる。まちづくりや中心市街地活性化の議論も疑問だらけだ。そもそも住んでいる人は、本当に中心市街地を活性化させたいのか。一部の「まちづくり専門家」が希望や思想として言っているだけに過ぎないのではないだろうか。まちづくり専門家の「あるべき論」も分からないではないし自治体経営の面から見れば固定資産税は重要だが、多額の税金が投入されている再開発事業に住民のニーズはあるのだろうか。

中心市街地が賑やかな金沢・香林坊付近。金沢は市街地が狭く自然なコンパクトシティだ

 行政主導のコンパクトシティは完成までに何十年と掛かる。そもそもコンパクトシティは人工的に作るものではないのではないか。その街の地形によって自然と形成されているものだ。山間(やまあい)が迫っている町ほどコンパクトで、中心市街地が残っている。こうした街には路面電車が現役だったりする。広島市、高知市、長崎市など、いずれもコンパクトシティだ。札幌や福岡は平地が広くコンパクトではないが、新しくやってきた人たちが多いので、中心部は活性化している。コンパクトシティは都市政策で強引に作るものでない。周辺にいる高齢者に対して、強制的に引越せと言えるのか。都市を集約しなければ、インフラの維持管理コストが上昇するというが、移住のための住宅建設コストや住民の幸福度の変化など精緻に試算されているのだろうか。

札幌市内。急激な人口流入を背景に中心市街地は活性化している

 

 コロナ後に見直される街

 最近、大東建託賃貸未来研究所が実施した調査で、コロナ禍で人と出会う機会が減り、そのことがストレスになっていることがわかった。コロナで人と会う大切さを見直したのではないだろうか。コロナ後の東京でどこに住むべきか。タイプによって住むのにベストな場所は異なるかもしれないが、シングルの若い人には、都心の住宅地を勧めたい。起業したい人やベンチャー志向の人ならば尚更だ。例えば麻布十番、神泉、新宿御苑前など、中心部の繁華街まで自転車で行けるような距離感の場所がいい。幸福度や地域満足度は、建物そのものではなく、住む場所から受ける影響の方が大きい。若い時は帰って寝るだけのスペースがあればいいから、都心の繁華街近くの駅近の物件に、狭くても住んだほうがいいと思う。女性の場合はちょっと郊外の私鉄沿線の駅もいい。

 子供がいる人は、子供の友人関係がどうなるかを考えて、住む街を決めるといい。自分の子供にはどういう友達を作って欲しいか、ということを基準に考える。例えば院卒など学力と所得が高いパワーカップルであれば、都心のマンションか、城南方面の世田谷区、目黒区だ。東急目黒線や東横線沿線で大正年間に開発された住宅地もいい。中央線であれば荻窪から国立までのエリア。埼玉ならば浦和区だ。千葉は新浦安と海浜幕張、神奈川は港北ニュータウンや鎌倉、みなとみらいの満足度も高い。言うなれば、不動産は「子供への投資」という要素もあるのだ。一方で家賃相場や物価の安い、いわゆる「コスパの良い街」には、なんからの理由がある。その理由は何か、自分のライフスタイルに合っているかを考える必要があるだろう。

千葉ニュータウン(提供=千葉県)

 端的に言えば、地価が高いところがいい場所ということになるが、このような不動産は高額であるため、購入するのは楽ではない。では少ない予算の場合はどこに住めばいいか?東京の下町ではなくて、郊外で「千葉ニュータウン」を勧める。千葉NTは上場企業に勤めるような人がバブルの時に買っている。物価とか不動産価格が安い割に、住んでいる人の所得が高い。近年はアクセスが改善されて、都心にも出やすくなった。不動産が安く、住人の所得が高く、利便性も高まった首都圏で唯一の場所と言ってもいい。同様に「多摩ニュータウン」も同じ傾向がある。こうしたエリアは高齢化が進んでいると言われるが、若い人がいないわけでない。千葉・鎌取のニュータウンなども同様の理由でおすすめできる。ただし同じニュータウンという名称がついていても、港北ニュータウンは不動産価格が高くなってしまう。TX(つくばエクスプレス)沿線の「守谷」もいい。歴史のある古い街だが、周辺は新興住宅地が広がっている。TX沿線は都心に近い方ではなく、「流山」から「つくば」方面がおすすめだ。他には郊外でタワーマンションが供給されているような場所がいい。埼玉だと「川越」や「越谷レイクタウン」といった街だ。

 

地方創生・二地域居住の限界 

宗健氏

 では地方創生、地域活性化はどうすれば実現できるのか。都会に出た女性は地方には帰ってこない。男性は帰ってくるが、大体、役職定年とかで暇になり、実家があるので帰るという人だ。こういう人は結構いる。このような定年後Uターンの人を増やすことが現実的なアプローチだと思う。地域としては若い人に来てもらいたいだろうが、実際にはかなり難しい。都会から地方に行ったほうが幸せになれる人がどれだけいるのだろうか。筆者の研究では都会の人が地方に行っても居住満足度は低くなる場合が多い。若い人を地方へチャレンジさせる、それで失敗しても誰も責任は取れない。反対に、地方の人が都会に住んだほうが、多くの場合満足度がアップする。

 地方は移住者の奪い合いになっている。そこから視点を変えて「二地域居住」という言葉も生まれた。だが実際にやっている人はどれだけいるだろうか。メディアにも取り上げられているのは、ごく少数の富裕層が多い。地域社会と密な接点を持てるような人はかなり少なく、移動コストについてもほとんど議論されていない。こうした経済的にも精神的にも難易度の高いことは世の中のトレンドにはならない。もしやるのなら、昔からの別荘地が、二拠拠点居住には適している。地元のコミュニティに入らなくてもいいからだ。いずれにしても東京の延長で、東京の人間関係を持ち込んでいるだけか、あるいは地方に行って東京的なことをやっているだけのことが多いのではないか。そのため一部の人たちの一過性のブームで終わるのではないか。

コメントをどうぞ
最新情報はTwitterにて!

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめ記事