コロナ収束後の働き方と住まいへのニーズ ニッセイ基礎研究所 准主任研究員 坊美生子
ニッセイ基礎研究所 准主任研究員 坊美生子

重要なのは「率」ではなく「頻度」

新型コロナウイルス感染拡大後、テレワークやオンライン授業の拡大によって在宅時間が増え、より広くて快適な住まいへのニーズから、郊外不動産への関心も高まっている注1。しかし、実際に郊外に移り住めるかどうかは、家族のテレワークやオンライン授業等の実施状況に左右される。

ニッセイ基礎研究所の「第7回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」によると、最新調査を実施した2021年12月時点では、在宅勤務やテレワークの実施率は、就業者の約4割(東京圏48.6%、京阪神37.4%、その他の地域32.5%)だった注2。しかし、居住地を決めるに当たっては、その頻度が問題になる。

例えば、出社がほぼ必要がない「完全テレワーク」や、出社回数が月数回という人には、住まいを選ぶ際の条件として、通勤利便性の優先順位は下がり、地方や郊外移住の可能性が高まると考えられるが、週2回以上となれば、そうはいかないだろう。共働き夫婦のうちどちらかでも出社回数が多ければ、郊外居住のハードルは上がる。子どもが地域の学校や大学へ登校している場合でも同様であろう。

図表1 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置発出期間における出社(登校)頻度

そこで、ニッセイ基礎研究所の前述の調査から、就業者と学生を対象に(有効回答1735)出社(登校)頻度を尋ねると、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されていた期間については、全体では「週0日」、つまりほぼ完全テレワークや完全オンライン授業等の人が10%、「週に1~2日」は10.5%、「週に3~4日」は17.3%、「週に5日以上」は半数近い46.5%だった(図表1)。「週5日以上」の回答者には、テレワークの利用が難しい技術系の労働者などが見られた。「該当しない」(15.7%)は自営業者などである。

エリアごとの傾向をみると、東京圏では「週0日」が全体よりも6ポイント以上、高かった。東京圏では、地方に比べて大企業の割合が大きいことや、通勤時間が相対的に長いために、在宅勤務の方が効率が良いことが背景にあると考えられる。逆に、東京圏と京阪神を除く「その他の地域」では、出社や登校が「週5日以上」、つまりテレワークやオンライン授業をほとんど利用しない人が53.2%に上り、全体を6ポイント以上、上回っていた。

通勤(学)利便性の高さ希望は変わらず

図表2 新型コロナが収束した後の出社(登校)頻度の希望

次に、コロナ収束後の希望を尋ねると、全体では「週0日」は5.3%、「週に1~2日」は9.7%、「週に3~4日」は21.3%、「週に5日以上」は48.9%だった(図表2)。エリア別に見ると、テレワーク実施率が高い東京圏でも、完全テレワークを希望する人は1割弱であり、週5日以上のフル出社(登校)を希望する人が4割近いという結果になった。

従って、現状では、通勤利便性の高い都心部の居住希望が引き続き多いと考えられる。郊外であれば、都心にアクセスしやすいエリアが好まれると考えられる。それ以外の郊外エリアの物件に対する居住希望が、今後増えるかどうかについては、企業側のテレワーク環境の整備状況にもよると考えられる。

図表3 在宅勤務によるストレス

ニッセイ基礎研究所の同調査では、在宅勤務の影響についても尋ねており、「在宅勤務による業務遂行上のストレス(コミュニケーションの取りにくさなど)」が「増えた」と回答した人(「増加」と「やや増加」の合計)が11%、「在宅勤務環境によるストレス(スペースの狭さやPCのスペックの低さなど)」が「増えた」と回答した人(同上)が10.5%に上った(図表3)。従って、企業側がPCや周辺機器の貸与、サテライトオフィス活用、ビジネスチャット導入など、テレワークしやすい環境整備を進めることで、就業者のテレワークへの意識が変わる可能性はある。

冒頭に述べたように、コロナ禍以降、住まいに対して「快適さ」を求める意識は高まっていることから、「働きやすさ」と「暮らしやすさ」を両立されるビジネススタイルや住まいが求められていると言えるだろう。

注1 例えば株式会社リクルート『住宅購入・建築検討者』調査(2021年)によると、コロナ禍拡大以降、住宅に求める条件の変化として、「収納量」「広いリビング」「部屋数」「日当たり」など、住まいの快適さに関する項目が上位に挙がっている。

注2 東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県。

22/1/19 不動産経済Focus &Research

 

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