ゴールドマン・サックス、日本で不動産投資を拡大 年2千億円規模に、木下氏に戦略を聞く

 ゴールドマン・サックス証券は日本での不動産投資を拡充する。11月1日に組織を改変し、物流施設やデータセンター、オフィス、レジデンスなどへの大型投資で収益拡大を狙う。同社マーチャント・バンキング部門の日本統括責任者である木下満氏に戦略を聞いた。

 ―世界の投資家は日本市場をどうみている。

 木下氏 人口減少と高齢化で成長性に疑問符は付くが、GDPは世界3位で不動産に流動性と安定性があるといった見方だ。還元利回りは他国よりも低い水準だが、不動産ローンの調達金利も低く、着実にリターンを得る上で重視されている。超長期ではなく中期的にみる分には面白い市場だ。

 ―日本での投資実績を振り返って。  

 木下氏 リーマンショック後にファンドでの大口投資からバランスシートを使った投資に切り替えた。ただ投資規模が大きくなり、実績も付いてきたので18年にファンド事業を再開した。かつては割安感のある30億~100億円の物件に年間500億円ほど投資していたが、19年に1500億円、20年に2000億円と拡大した。今年は9月までに1500億円超を投資し、通年では2000億円前後になりそうだ。

 ―11月に組織を変更する。その狙いは。

  木下氏 当部署では不動産のほか企業のバイアウト、クレジット、インターネット関連企業と主に4分野に投資してきたが、私募リートなどを手掛けるコア不動産の運用部隊を11月に統合する。彼らの投資額は年に500億円ほどでAUM(運用資産残高)は約3000億円だ。統合後のAUMは1兆円規模になる。

 ―日本で不動産投資を増やす理由は。

 木下氏 事業会社やデベロッパーらの売却案件が増えている。個人地主にも売却の動きが目立つ。価値を上げる余地が大きい物件を選別して投資していく。

 ―物件取得の状況はどうか。

 木下氏 安定している。現行のファンドでは価値向上を狙える物件に投資しているが、開発などリスクを取るようなファンドも検討している。コア不動産のチームが合流すれば、コアからオポチュニスティックまでフルラインナップで投資する形が整う。

 ―世界のなかで日本市場をどう位置付けている。

 木下氏 投資比率は米国4割、欧州3割、アジア3割で、日本はアジアの3分の2以上を占める。1件の投資額は100億~1000億円と大型化している。

 ―日本での中心となる投資家層は。

 木下氏 欧米やアジアの機関投資家や政府系ファンドなどが多い。今はグローバルファンド一本で勝負しているが、日本を含むアジアファンドも検討中だ。

―日本におけるアセットごとの投資比率は。

 木下氏 本年度は物流が半分で、3割弱がオフィス、残る2割がレジとホテルだ。レジはバルクで買うことが多く今年は250億円ほど買った。ホテルは3月に沖縄、6月に京都で自社開発の施設を開業した。

 ―アセット別の投資戦略について。

 木下氏 物流施設は売値が高く、リースアップのリスクをとる形や、ゼネコンと組んで土地から仕入れる方法など買い方を工夫している。物流とデータセンターは自前での開発実績もある。オフィスは東京など三大都市や福岡にある賃料2万~3万円の中大型物件を狙う。リースバック案件も手掛ける。ホテルはコロナで流動性が下がったが価格は落ちず、長期リースかつ固定賃料の物件を契約形態を変えながら投資していく。

 ―日本の不動産市場のリスクをどう分析する。

 木下氏 価格的にピークが長く、サイクルを考えればいつかは落ちる。3大メガバンクが融資を引き締めれば流動性が一気に下がる可能性もある。ただ日本は非常にドメスティックな市場で、米国などの不調が即座に波及するとは考えにくい。日本で投資する海外投資家の98%を上位20社が占めている。だからこそ日本で投資家のすそ野を広げる余地もある。(日刊不動産経済通信)

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