不動産投資家の意欲に衰えなし―オフィスの多様性に資金が流入(上)より続く
これに伴い募集賃料も弱含みを見せている。1坪当たりの平均賃料は2万1045円(前月比0.5%下落)となり、1年前の同じ月との比較では8.6%の下落となった。賃料は全エリアで下落しているが、特に渋谷区は2万2539円となり、前年同月比で10%と下落幅が2桁に乗った。
先行きもしばらく厳しいとする試算も出ている。SMBC日興証券は、投資家向けレポートの中で都心5区の空室率を2021年末に5.5%、2023年には6.2%と予想。2025年までは6%前後で推移すると見立てており、コロナ前の水準に戻すのは向こう5年以上先となりそうだ。
もっとも、オフィスビル市況は一括りにできない。三菱地所が手掛ける東京駅前常盤地区の再開発プロジェクト「トウキョウトーチ」では2027年に日本一高い390mの「トーチタワー」が完成する予定だが、その初弾となる「常盤橋タワー」が7月下旬に開業し、オフィス部分のテナントの入居率は既に9割が決まり順調なスタートを切っている。人気のオフィスはコロナ禍であってもテナントを引きつけている。
市場規模とCFの安定性に対する評価高い
フレキシブルオフィスに伸びしろの期待大
とはいえ、総体的に不動産投資家がオフィス投資に及び腰になっているわけではない。不動産証券化協会によれば、直近7月末の調査で6月末時点の私募リートの保有不動産は取得価格ベースで1097物件・4兆2273億円となり、3月末から482億円増えている。
このうちオフィスへは1兆7229億円投資され、投資比率は4割を占めた。2020年6月末時点では938物件・3兆7631億円だったことから、コロナ禍の1年間でも4600億円ほど増加しており、投資意欲が底堅いことを裏付けている。
オフィスへの投資比率は1年前からほぼ同じ水準にあり、Jリートを合わせると、オフィスに対する投資額は10兆1689億円となり、2位の物流施設(4.6兆円)と3位の商業施設(4.0兆円)を大きく引き離し、主要な投資対象としての位置づけは変わっていない。
内閣府が8月10日に発表した「景気ウォッチャー調査」は、7月の現状判断DI(季節調整値)は48.4と前月から0.8ポイント上がり2カ月連続で上昇した。先行きは家計・企業・雇用の全てのDIが低下しているが、内閣府では感染症の動向次第だがワクチン接種の進展などで持ち直しが続くと見ている。アフターコロナに照準を当てた緩和マネーが世界中から日本の不動産に流れる。投資対象となる不動産の市場規模と、キャッシュフローの安定性に対する評価は依然として高いためだ。
その投資対象として、成長著しいフレキシブルオフィスが新たに注目され始めている。ザイマックス不動産総合研究所がこのほど、首都圏の企業を対象に「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査(7月)」をまとめたところ、サテライトオフィスの導入状況について「コロナ危機発生以前から導入していた」(18.5%)、「コロナを機に強化・拡大」(6.4%)、「コロナを機に導入し、現在も継続中(一時休止したが再開した場合や、一時的に利用制限している場合を含む)」(13.8%)とサテライトオフィスを導入している企業が過去3回の調査を含めて約4割と一定数を占めている。
新型コロナウイルスがオフィス事情を変えていることをビジネス好機につなげる動きも活発だ。三菱地所リアルエステートサービスは、個室に特化したサテライトオフィスの提供に乗り出し、今秋にも第1号店を東京都立川市内にオープン予定だ。ダイキン工業やライオン、TOTOなどと共同で推進する。テレワークと働き方の多様化に対応するもので、2024年ごろまでに10拠点ほどの開設を目指している。
個室型サテライトオフィスは、空気を浄化するシステムを導入したり、照明の非接触化や抗菌・抗ウイルス加工のデスク、顔認証システムを導入するなど感染対策に気を配り新たなビジネス需要を取り組みたい考えだ。サテライトオフィスやシェアオフィスなどコロナ禍で市民権を得つつある中で、欧米に比べるとフレキシブルオフィスの伸びしろが大きいと期待する投資家も少なくない。
2021/8/15&25 不動産経済ファンドレビュー