企業のオフィス戦略が議論される中で ―フレキシブルオフィスの可能性を見る(上)より続く
コロナ禍により、一気に普及した感があるテレワークだが、直近ではその活用に変化が見え始めている。2021年6月に公表された内閣府による生活意識・行動の変化に関する調査では、ほぼテレワークで仕事を行っている人が、2020年5月の10.3%から2021年4~5月は5.2%と全国で半減した。東京23区では、同23.9%から同14.3%に低下。一方、基本的に出勤だが、不定期にテレワークを利用するという項目は大きく伸び、全国では同5.8%から同10.7%、東京23区は同4.8%から同11.3%と上昇した。日本生産性本部による7月の調査では、週当たりの出勤日数を尋ねているが、0日(完全テレワーク)とする人は、2020年5月の32.1%から2021年7月は11.6%と大幅に減少した。他方、週3~4日の出勤との回答は同21.1%から同34.4%に増加している。これらの調査結果を見る限り、働き方は、一定程度のテレワークを行いながらオフィスも同時に使用するといった柔軟な運用へ移行していることがわかる。テレワークで可能な仕事の選別が進み、一定のオフィス使用と対面でのコミュニケーションは必要なことが認識されている。それらの効用を実感した企業は、単なるメインオフィスへの回帰ではなく、オフィス機能を見直し始めている。
デベはメリハリの効いた供給とブランド戦略
FOの活用で生産性の向上確認できるかが鍵
オフィス立地として、人が集積する都心立地を重要視する傾向は、小規模事業者や部署単位でのオフィス分散を考える企業にとっても変わらない。他方、サテライトとしてオフィススペースを活用したい企業は、社員の住まいに近い郊外での利用を視野に入れて導入を検討している。野村不動産は、それぞれのニーズに対応するオフィスシリーズを展開し、ニーズに適した環境設定や設備を導入する戦略をとる。
同社が2019年から都心部を中心に展開している「H¹O(エイチワンオー)」は、入居者の働き易さと快適な環境性にフォーカスしたサービスオフィスで、有人受付、専有部個別空調、生体認証のキーレスセキュリティーなど設備とサービスの充実に強みがある。同シリーズは、内部にコワーキングスペースを併設せず、入居者専用の共用部はセキュアでゆとりある空間を実現している。「少数精鋭で活躍する事業者をターゲットにしたオフィスを展開する目的であったが、コロナ禍により、大企業の分散ニーズを同時に取り込んでいる。各社がオフィスに求めることは変化しており、オフィスの効率化は図りたいがグレードを下げたくない。社員のモチベーションを高く維持し、情報漏洩リスクのない環境で仕事をしたいという声が多く寄せられている」(橋本葉子ビルディング事業一部課長代理)。また、同社は多拠点ニーズを持つ顧客に応えるため、都心だけでなく郊外にもサテライト型シェアオフィス「H¹T(エイチワンティー)」を展開している。「H¹O」は、最短で3カ月からの賃貸借契約による入居だが、「H¹T」は入会金、年会費とも無料で、利用した分だけ請求する従量課金方式を採用している。それぞれのシリーズが市場に受け入れられており、同社によるとこの2ブランドに加え、中規模ハイグレードオフィス「PMO」の3ブランドを組み合わせて使用する入居者が増加している。
一方、FOはベンチャー企業など小規模事業者も多く入居することから、事業性について一定の疑義が生まれている。青山リアルティー・アドバイザーズの岡野淳顧問は、「小規模事業者は成長して増床、退去などが頻繁にあり、リーシングスタッフの負荷が高い。またフロア内で増床したくても、区画ごとの調整も難しい。また、通常のオフィスならば賃貸借面積に含まれている会議室などが、FOでは共用部とされており、これがフル稼働することはまずない。はたして利益率の高いオフィス形態と言えるだろうか」と運営の難しさを指摘する。
小規模事業者拠点と大企業の分散拠点という異なる需要を内包するFOは、カテゴリーとして完成されているとは言えない。今後、働き方に応じた論点整理が進むものと見られる。足元では企業の大小に拘わらず、CRE戦略の大本であるオフィス機能の精査が進んでおり、FOの活用が生産性の向上に資することが確認できれば、さらに市場が広がる可能性を秘めている。
2021/8/5 不動産経済ファンドレビュー