2021年9月に発足した岸田文雄内閣は、政策の柱としてデジタル田園都市国家構想を掲げている。政策内容を具体的に検討するために、有識者や自治体の首長が参加するデジタル田園都市国家構想実現会議を11月に設置、22年4月27日までに会議を7回開催した。第1回会議で岸田首相は「新しい資本主義実現に向けた最も重要な柱とし、デジタル技術の活用で地方を活性化し持続可能な経済社会を実現したい」と述べた。デジタル田園都市国家とは「地方と都市の差を縮め、都市の活力と地方のゆとりの両方を享受できる国」を実現することだとし、デジタル技術によって、どこにいても大都市並みの働き方や質の高い生活が可能になる「人間中心のデジタル社会」を、理想的な社会像として位置付けている。住生活ではIoTを軸に利便性・快適・安全を追求した住宅システムであるスマートホームの普及を目指すことになる。デジタル田園都市国家構想とこれからのマンションのあり方を考える。
デジタル田園都市国家構想は、その実現に向けてデジタルインフラなどの共通基盤の整備や、地方を中心にしたデジタル技術の実装を進めていくことになる。デジタル庁の資料によれば、デジタル田園都市国家構想が目指すべきものは、地域の「暮らしや社会」「教育や
研究開発」「産業や経済」をデジタル基盤の力により変革し、「大都市の利便性」「地域の豊かさ」を融合した「デジタル田園都市」を構築。「心ゆたかな暮らし」(Well-being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)を実現することだという。
また、狭い意味での「まちづくり」にこだわらず、オープンなデジタル基盤の上に、様々なアプローチを軸に同じ指向性を持つ相互に連携可能なサービス事業者を集め、国・地方が一体となって、官民一丸となった取組みの実現を目指すという。アプローチの一例として次世代のデジタル家電と新しいライフソリューションサービスとが融合し、住まいを設計段階から見直す「スマートホーム先行型」まちづくりを挙げている。
自民党政権が田園都市を政策の柱に据えたのは岸田内閣が初めてではない。1978年に誕生した大平政芳内閣も田園都市を重要な施策に掲げた。大平は首相に就任する7年前の71年に田園都市国家構想を発表している。高度経済成長の最中で田中角栄の日本列島改造論が発表される1年前である。敬虔なキリスト教信者で、文人宰相とも称された大平は都市と農村を一体でとらえ、中心となる都市部は就業の場を提供し、周辺の農村部の豊富な緑で都市部を囲み、生鮮食品を提供する人口20万〜30万人程度の中規模な田園都市を全国に作ろうとした。大平内閣の発足とともに梅棹忠夫国立民俗学博物館長を議長とする「田園都市構想研究グループ」を設置、有識者と中堅官僚による検討が行われた。しかし、大平首相が総選挙の最中に急逝したため、死後公表された報告書は、その後の内閣の政策に引き継がれないままになった。