2019年6月に野村総合研究所がまとめたレポート「2030年の住宅市場と課題」によれば、2033年の空き家率は25.2%、およそ4件に1件は空き家となると予測している。同レポートでは、2018年時点の空き家率13.6%を維持するには、今の新設住宅着工と同水準の除却を進める必要があると警告している。行政による建物の除却を認めた「空家等対策特別措置法」は施行から5年が経過したが、国土交通省の調査によれば、令和元年10月時点の行政代執行は50件に過ぎない。一方で空き家のビジネスモデルを構築する動きも活発となりつつある。空き家ビジネスの最前線に立つプレーヤーの声を聞いた。
―日本の空き家の現状をどう見るか
和田氏 空き家問題は、都市部における問題と、地方における問題の大きく二つに分けられると思う。空き家は地方にしかないわけではない。空き家の戸数が一番多いのは東京都内で、約80万戸のストック。その次が大阪で約60万戸、その後は神奈川、愛知と続く。空き家の総数は都市圏が半数以上を占めているのが実態だ。都市部では更地にして新たに建物を建てることで流通する。一方で地方は流通には載せにくい。そこに両者の違いがある。空き家を含む中古住宅流通のマーケットは大きい。リフォーム産業新聞の調べによると、13年の時点で約9.2兆円の中古流通市場がある。 一方で政府の未来投資戦略によれば、25年までに20兆円規模を創出するとの記載があり、内訳は中古流通市場が8兆円、リフォームが12兆円。それだけ大きなマーケットあるにもかかわらず、空き家は住宅ストックの約2割もある。この部分は流通を促進しないと解決しない。空き家のままになっているのは、経済合理性が低いということで宅建業者が動かないからだ。潜在需要の掘り起こしが弱いからではないか??そこを顕在化させることでマーケットを創出していきたいと考えている。
―空き家事業を開始した経緯について。2018年8月に空き家情報サイト「A K I D A S(アキダス)」をリリースしている
和田氏 母体となる会社を6年前に立ち上げており、空き家に関するビジネスは3年前に開始した。 それまでは新築を中心とした住宅事業を展開していたが、ある時、このまま新築ばかりを続けていたら、長崎県の「軍艦島」のように、街ごと廃墟になる場所が出てきてもおかしくないと思った。空き家が増えることはなんとかしたい。そこで当時、ビジネスの観点で空き家を考えると、空き家を流通させようという会社やN P Oなどはあったが、空き家問題を包括的に解決しようとか、空き家の流通市場を作ろうという会社はなかった。そこで当社は空き家情報プラットフォームとして「A K I D A S」を開設した。空き家をビジネスとして問題解決に貢献できればと考えている。
― A K I D A Sでは個別具体的な空き家の情報の詳細が確認できる(会員制サイト)。一軒一軒回って調査を行っているのか
和田氏 当社は、約15万件の空き家情報をストックしている。空き家に関する生データがこれだけあるのは当社だけだと自負している。調査員は約40名。一都三県、大阪、名古屋で、シニアを中心とした地域の調査員が実地に調査を行なっている。ただしアキダスから得られる情報は、公の情報だ。調査員には建物の外壁の写真などを撮って送ってもらうが、同様の情報は Googleストリートビューなどでも掲載されている。外観から得られる情報に加えて、サイト上で登記簿情報まで確認ができる仕組みだが、住所も登記情報も公開されている。ただしストリートビューを見て、空き家のような物件があったとしても、時間差があるため、実際には取り壊されているかもしれない。現場へ足を運ばなければわからない情報は他にもある。ガスのメーターが止まっているとか、周辺に聞き込みしてはじめて空き家だと判断できる場合もある。ネットだけでできる時代も来るだろうが、最後は目視だ。
―A K I D A Sの内容について。
和田氏 空き家・空き地・老朽化アパートの情報を載せている。使い方は、条件を入れて検索し、表示された空き家の一覧の中から詳しい情報を知りたい物件があれば、その物件の情報をカートに追加し、注文に進んで決済をしてもらうと、詳細な住所、写真、登記情報が取れる。 所有者がわかるから、 あとはDM送付などで営業活動ができる。利用料金はエントリープランが月額1万円で物件1件ごとに3000円。スタンダードプランが初期費用に加えて月額10万円で毎月50件まで空き家の情報が取れる。その上にプレミアムプランを用意している。月15万円で毎月100件の情報が撮れる。その後の成約手数料のような追加の費用はない。フリーアカウントも含めてアカウント発行数は230社で、月額課金は50社ある。
―地方については
和田氏 地方自治体と連携して問題解決のためのサポートをしていく。今は宮崎県延岡市や埼玉県寄居町など複数の自治体と提携し、当社は空き家に関する調査と情報提供と、セミナー開催などを行なっている。 自治体版のA K I D A Sの様なものを提供していくことで、当社は所有者を掘り起こし、所有者に売却か、賃貸かといった意思決定してもらうところまでお手伝いさせていただく。当社はプラットフォーマーに徹して、そこから先はその地域の不動産会社などとマッチングさせる。自治体と業者をつなぐマッチングプラットフォームを今作っている所で、これから正式にリリースする。自治体ごとに展開していく予定で、将来的にはこれらを繋げた全国版のような形にできればいいと思っている。
ー空家対策特措法の評価は
和田氏 日本国内の空き家の総数は、空き家の除却のペースが今と同じ水準だとして、2033年には約2000万戸に達するとの予測がある。4軒に1軒が空き家だ。日本の住宅産業は、人が減るのに建物を建てるという高度成長時代そのままのビジネスモデルだ。それが特措法によって、皆に問題意識が芽生えたのは良かった。ただし現場とは合っていないと思う。除却するなら、手続きがスムーズにできるような仕組みが必要だ。特定空き家に指定されたのに、実際の除却まで進んだものがほとんどない。まず自治体に予算がない。解体してもその費用を回収できる見込みがない。費用が所有者から回収できないとなると全額税金となり、それでは住民の理解が得られない。いろんな課題が市区町村レベルである。こうした地域の実情と、国の施策がうまく噛み合ってない様に感じられる。国としては市区町村が動きやすくしてあげなくてはいけないだろう。法律の中身が良いとか悪いとかではなくて、うまく連動していないのが課題だ。もっと市区町村からこうしたい、というボトムアップがいるかもしれない。当社はこうした現場の声を国に上げていく手伝いもしていく。現場の声をしっかり届けるというところまで、民間企業として行いたい。