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タワーマンションの防災対応を考える① (有)studio harappa 代表 村島正彦
(提供:不動産経済Focus & Research)2024 年11月26日、「超高層住宅の災害対応を考える」( 住総研シンポジウム) が東京都港区にある建築会館ホールで開催された。記憶に新しいところでは、2019 年10 月の台風19 号による武蔵小杉のタワーマンションの浸水被害で停電は5日間に及び、住民の一時的な避難が行われた。また、明日起きてもおかしくないと言われる首都直下地震・東南海トラフ地震などにおいて、果たしてタワマンは大丈夫なのか。そんな疑問を日頃から抱えていたこともあり、シンポジウムを聴講してきた。
―タワマンの防災上の課題―
シンポジウムでは、地震工学/構造、防災、長期修繕、行政など多分野の専門家から発表があった。本稿では、誌面が限られるため、示された現状の災害リスクの課題、備えるべきポイントに要点を絞って報告する。
・多様で個別性が高い
タワマン( 20 階以上)の供給は1980 年代からで、2000 年代から急増し、その時代の最新技術・材料が取り入れられるなど多様で個別性が高い。耐震性能についても、通常の耐震構造、加えて最近では制振・免震装置が導入されたものなどさまざまだ。また、一般の中高層マンションにはない電気・給排水・防災設備なども備えられている。つまり防災対応も一様ではない面がある。
・「構造躯体を守る」から「人の生活を守る」へ
タワマンは大地震で倒壊・崩壊しない、という構造の専門家からの評価だ。ただし内外装や設備のほか家具転倒などの被害が想定さ
れる。高層階・中間階・低層階で被害の度合いが違う。とくに中高層階では、EV 停止などで誰も助けに来ないと考えられる。設備や室内の被害によっては居住継続が困難になることも。さらに、発災後の応急危険度判定の対象ではない(対象は10 階程度まで) 、地震保険は躯体部分であり被害額と対応しないことなどが指摘された。
・複合災害の課題と地域貢献
近年の水災害・土砂災害・都市型複合災害への対応が求められる。温暖化により土木的対策だけでは対応が不可能になっており、建築・まちづくりによるハード・ソフト対策が求められる。とりわけ電気設備の浸水対策は必須だ。このほかタワマンは総合設計制度を活用した公開空地を備える場合が多く、居住者が逃げる必要のない対応はもちろん、さらに周辺住民の避難場所などの地域貢献を担うことも求められる。以上のようなタワマンに特徴的な課題が指摘された(秋山哲一・東洋大学名誉教授、久田嘉章・工学院大学教授の発表から要約)。
ー被災後の生活継続への備えー
指摘された課題に対して、どのような対策を取るべきなのか。新都市ハウジング協会マンションLCP 分科会(注1)の村田明子氏は、マンションの生活継続(在宅避難) の必要性について次のように発表した。
東日本大震災における被災状況について、マンションの調査を行った。このうちタワマン3件(いずれも東京都)は、躯体は全て被害なし。ただし、EV 停止(閉じ込め) ・エクスパンションジョイント落下、タイル落下、電気温水器漏水、照明落下・・・などが報告されている。
安否確認についての懸念点として、住戸数の多いタワマンでスムーズに安否確認が可能なのか、ドア変形による閉じ込めについてベランダが隣戸につながっていない物件があったり、幼児連れの女性らがEV 停止で高層階に戻れないなどの指摘があった。
生活継続のライフライン(水/情報/運搬) についてはタワマンでは移動や物資運搬などEV 停止の影響が大きいこと(非常用EV は1機程度・非常用電源は断続運用で3日程度)。さらに点検や復旧において、タワマンは工事可能な会社が限られているため、被災後長期にわたって復旧に取りかかれない懸念も指摘された。
また発災時に役立つ施設については、エントランスホールや広場、話し合いができる集会室などタワマンの備える共用施設が有効であること。設備については、自家発電設備が館内放送や共用廊下・階段室などの照明に(閉鎖型だと真っ暗に)活用された。そのほか、緊急遮断弁・受水槽の採水口、散水栓、非常用電源・アナログ電話機・カセットガスコンロなどが挙げられた。
以上は建物のハード面の課題であるが、村田氏が強調するのは、マンションの自治会や防災会など居住者組織の重要性だ。居住者名簿の整備や防災・避難訓練、防災マニュアルの作成等、ソフト面の対策が生活継続のカギとなるという。
生活継続力については、「発災時リスク」が、負傷・閉じ込め・避難できない・火災・情報がない・混乱、「生活継続リスク」は、停電・断水・排水不全・ガス停止・移動・寝食困窮があるという。
こうしたリスクについて、マンションLCP 分科会は「生活継続力評価ツールLCP50+50」(注2)を作成して、新都市ハウジング協会のホームページで公開している。管理組合・自治会・管理会社など、このツールを使って「自分のマンションの強み・弱みを把握してほしい」と村田氏は語る。これを踏まえ、生活継続に施設・設備の重要性とその耐震化、機能維持対策・備品の準備、加えて運営・組織、日頃のコミュニティが大切だと訴える。(つづく)
(注1)生活継続計画「Life Continuity Planning」:大規模な地震や台風など災害に対して、防災・減災へ備える対策
(注2)生活継続力評価ツールLCP50+50
https://anuht-lcp.com
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