マンション大規模修繕の戦略⑬中村塗装店
大規模修繕後(中村塗装店
大規模修繕工事前(中村塗装店)

中古マンションが流通市場で高い評価を得ていくためには、適切な改修工事が
施される必要がある。施工会社はどのような戦略をもって大規模修繕を通じた付
加価値を提供しているのか。このコーナーでは、マンション改修施工会社の大規
模修繕についての考え方や戦略にスポットを当てる。今回は中村塗装店の取り組
みを探った。

洋式塗装で信頼得てきた歴史

 東京都品川区に本社を置く中村塗装店は、明治3年(1870年)に初代中村八十吉が洋式の塗装を手掛けて創業した150年以上の歴史を誇る老舗企業だ。日本初の新橋〜横浜間の汽車鉄道の塗装を手掛けて東芝創業者の田中九重の工場への出入りを許された。後に東芝の重電工業の塗装に携わる契機となった。建築塗装の分野でもジョサイア・コンドルなど建築家の指導の下、日本銀行、国会議事堂、三菱本社、三井本館など主な日本の近代建築の塗装工事に従事した。この実績から戦前、戦後も財閥系の塗装に関わった。鉄道・道路・橋、プラント施設等を対象とする鉄構造物塗装や原子力・火力発電所施設・設備等の電力プラント塗装、各種タンクなどの塗装、防食・防錆塗装を全国で手掛けてきた。

分譲マンション大規模修繕への開拓

 製造設備、新築オフィスの塗装を主としてきた同社は1970年代から住宅の塗装にも関わるようになった。日本住宅公団の新築塗装を始めとして、1980年代にはマンションの新築塗装、改修(塗替え)にも関わるようになった。大規模修繕を本格化させたのは2000年代だ。城南エリアを中心に、財閥系デベロッパーが供給した比較的高級なマンションからの大規模修繕の受注が相次いだ。
 高級マンションの場合、塗装の質だけでなくサービス面での充実がより求められる。同社では大規模修繕の施工期間であっても、基本的には土日は洗濯物が干せることを明言。住民向けに掲示板やマンション専用のホームページなどで洗濯物を干せる日を明示し、ベランダの資材や道具などを片付けることを徹底している。一般的に土日祝日は作業が行われないため、洗濯物を干せることも多いが、「土日に洗濯物を干せる」と明言する施工会社は希少だ。
 同社のモットー「お客様を大切に」を具現化するのは挨拶の徹底だ。職人と同社の代理人が挨拶を徹底することで居住者一人一人と信頼関係が築けており、居住者からは高く評価されている。その他、居住者とのコミュニケーションのハードルをなるべく低くするため、工事専用ポストだけでなく、各マンション対応する専用フリーダイヤルの電話を設置し、夜間・休日などの緊急連絡も受け付けている。コミュニケーションの徹底は居住者の評価が高く、同社に寄せられる声の多くが「職人の方たちの礼儀正しさ」を挙げる。

バリアフリー施工前(中村塗装店)
バリアフリー施工後(中村塗装店)

質の高い塗装の伝統生かす

 同社は、工場塗装、建築塗装で長い伝統を誇るが、とりわけ強みとするのは明治時代の汽車塗装から続く金属塗装(金属表面処理)だ。工場建材の焼付塗装や防食処理を施工してきた実績から、マンションの鉄部塗装には高い技術力を持つ。
 高級マンションの大規模修繕を多く受注していることから、意匠性の高いバルコニー柵などの塗装に長じる。近年、手摺柵などには錆びにくいアルミ製品が増加しているが、玄関扉枠や共用部機械室などの扉は鉄製が主流だ。玄関扉やメーターボックスの扉は開放廊下に面しており、ゲリラ豪雨など近年激甚化しつつある風雨に晒され、塗装の劣化が加速している可能性がある。塗装劣化に伴う錆の発生は、多額の費用を要する交換にまで悪化することもあるため、より強度の高い塗装が求められるようになっている。
 また、築年数の高いマンションの場合、照明設備の省エネ性能に改善余地があることが多い。人感センサーライトやLEDへの転換によって共用部の電気代を抑制する改修も担っている。マンションのヴィンテージ化に資するエントランス改修、バリアフリー改修にも注力する。
 なお、同社はデベロッパー系の管理会社経由だけでなく、同社の実績を知る居住者を経由しての受注も多いという。現在は、都心エリアを中心とした比較的中低層のマンションの大規模修繕が主だが、今後はタワーマンションの大規模修繕受注に備える。

2021/5/5 月刊マンションタイムズ

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