中国のリート市場に目が注がれている。約12兆元(約188兆円)ともいわれる潜在的なリート市場規模を有する中国において、現在の私募ベースである「類リート」に加えて、公募リート市場が正式にスタートしたことで、新たな投資機会が生まれようとしている。コロナ禍で動き出す市場の足元と今後の可能性などを見る。
中国本土における公募リートがスタート
地方政府の財政赤字拡大し民間資本に期待
中国のリートは現在、「証券法」、「証券投資基金法」等によって中国証券監督管理委員会の管理規定、基金業協会及び上海・深圳証券取引所の資産証券化業務に関する一連のガイドラインに基づく不動産関連資産を対象とした私募ベースの証券化商品として位置付けられている。日米などのリートとは違い、リートに類似していることから「類リート」とも呼ばれている。2014年に初めて商品が発行されて以来、2020年12月末で91銘柄あり、発行済み総額は1786億元(約2.9兆円)に達している。2020年に計23銘柄、発行額は392億元(約6293億円)の商品が発行されたが、2019年と比べて発行額は19.7%減少した。その背景に、2020年に新型コロナウイルス感染拡大の影響で社会全体に不況が続いていたこともあるが、一部が後述するインフラ公募リートの基準を満たした案件が類リートとしての発行を中止したとも見られている。
発行済み総額をセクター毎に見ると、安定的な賃料収入が得られる商業セクターが最も大きく45%、次いでオフィス15%、賃貸住宅11%、インフラ9%、物流センターなど8%、ホテル8%と続く。平均確定分配率は5.1%で、一時3%台まで低下したものの、5%水準を維持している。
類リートが私募であるのに対し、インフラ公募リートは文字通り上場リートだ。2020年4月30日、中国証券監督管理委員会と中国国家発展改革委員会が、「インフラセクターにおける不動産投資信託基金パイロットプロジェクトの実施に関する通知」を発表し、中国本土における公募リートが正式にスタート。8月にガイドラインを発表し、9月に上海と深圳の証券取引所が関連する実務内容を確立、9月末、パイロットプロジェクトの申請手続きの受付を始めている。約50件の申請があり、審査の結果、30件が適正と判断され、5件が上場を前提に中国証監会で再審査されており、上場目前まできている。
対象不動産は、北京市などの首都圏、上海市など長江流域の11省・市、香港、マカオ、広東省珠江デルタの9都市、海南省および国家級新区、一部国家級経済技術開発区におけるインフラセクターに限定されている。電気・水道・ガス等のライフラインに加え、廃棄物処理場、有料道路等交通施設のほか、工業・産業団地である産業園区、物流倉庫、通信システム等新型インフラも対象となっている。さらに、対象インフラ施設は竣工済み、かつ3年以上安定的な運営実績があることが前提条件となっている。
そもそも、なぜ今の時点でインフラ公募リートが創設されたのか。ニッセイ基礎研究所の胡笳(こ・か)研究員によると、健全な住宅投資を促す市場形成のために、リートに対する制度整備が必要ではないかという指摘や議論が10年以上前から続いていたことに加え「中国の内需拡大という国策に一致しているから」という。近年、中国の地方政府は財政赤字が拡大しており、土地依存という従来の方針を余儀なく修正。また、2020年は、新型コロナ対策となる特例減税措置が全国で実施され、地方政府の収入がさらに減少する見込みにある。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界同時にダメージを受け、外部環境が悪化し続けている。そうしたなか、「地方政府は新たな財源開拓措置による資金供給の一環として、インフラ公募リートを通じた民間資本の吸収に期待している」(胡研究員)。
(中国リート市場に高まる期待―公募リート始動で新たな投資機会創出 下へ続く)
2021/4/15 不動産経済ファンドレビュー