ECテナントを引き込む都市の魅力
商業テナントにこだわらない運用戦略
コロナ禍を経験した商業テナントがECに販路を見出した結果、2022年8月に経済産業省が行った電子商取引に関する市場調査によれば、日本のEC化率は8.78%で前年比0.7ポイント上昇した。一方、リアルな質感などを見たいという消費者の声が聞こえるアパレル業界では、「2021年は規制の緩和により消費者の客足が戻り、リアル店舗の売り上げが伸びた一方で、EC販売の伸びは鈍化した」(矢野経済研究所2022アパレル産業白書)というように、リアル店舗の重要性は調査からも裏付けられる。なかでもEC特化型で売上を伸ばしてきたアパレル各社が、リアル店舗を出店する動きが活発だ。ZOZOは、2022年12月国内常設店舗初となる「niaulab by ZOZO」を渋谷区表参道エリアに開業した。同社が実施した意識調査では92%の消費者が、洋服は「自分に似合うかどうかが重要」と考えていることから、気軽にパーソナルスタイリングサービスを提供する場の設置を決めた。また、中国に自社倉庫を構えてグローバルにEC展開し、2021年度には3兆円に迫る売上を誇るシーイン(SHEIN)は、2022年11月渋谷区原宿エリアにリアル店舗をオープン。こちらも店舗で販売は行わず、ショールーミング型となっている。こうした販売を行わない店舗は、消費者とのタッチポイントとしての機能や消費者動向を掴む拠点として機能する。そのため、感度の高い消費者が訪れるエリアに出店する必要があり、ECの伸長は都市型商業においては競合せず、補完関係を築く存在としての成長を見込む。
テナントが工夫を凝らして出店の合理化を探るなか、主に大規模な商業施設運用には用途をミックスし、館全体でニーズと賃料の最適化を図る戦略が重要な視点となっている。日本都市ファンド投資法人は、2021年3月に日本リテールファンド投資法人とMCUBS MidCity投資法人の合併により総合型リートとして再始動した。コロナ禍では、福岡市天神エリアの飲食ビル「ウエストサイド天神ビル」を、コワーキングスペースやエステサロンが入居する複合ビル「CRANK」として用途転換するなど、時流に合わせたテナントミックスで集客性の高い不動産運用を目指す。前出の荒木氏は、「中長期で見る人口動態、都市型商業ビルの用途多様性、買い手の豊富さからの高い流動性、いずれの観点からも都市型商業施設は強い」と述べた。用途転換に係るレギュレーション課題やテナントに合わせた外観の変更など、きめ細やかな運用の必要性はあるものの、インバウンド回復も見込んだ売上の伸び余地と、人流に支えられた安定性を確保した施設の未来は明るい。
また、銀座や表参道のプライムエリアで小中規模商業施設を運用するFPGは、「テナント入替えや、建替えによる単独再開発を捉えれば取得機会はある」(前出の川村氏)と今後を見る。こうした物件では、賃料を最大化するために複合型ではなく、単独テナントとしてブランドコンセプトの演出を可能にするなど大規模物件とは強みが異なる。メインテナントの賃料負担割合が高いことが多く、退去リスクを取れるフルエクイティの投資家がメインプレーヤーとなる世界で、銀座、表参道というプライムエリアの力強さはコロナ禍でも確認され、今後コンペティティブな市況となりそうだ。確かな活気が戻った手ごたえに期待は膨らむが、物価高や金融市場の影響など商業施設にとっての懸念材料もある。今後生じる空室のダウンタイム短縮と賃料上昇が見られ、完全なコロナ禍脱却と一段の上昇局面の訪れとなるのか目が離せない。