トップインタビュー マンション管理の未来 第47回 住商建物社長 松田 晋治氏(下)
住商建物・松田晋治社長

超高齢社会を迎えた中で増え続けるマンションストック。建物の老朽化と入居者の高齢化に加え、管理員の高齢化という「三つの老い」が進み、修繕・改修工事等も含めたマンション管理の重要性がますます高まっている。このコーナーではトップインタビューを通じてマンション管理の未来を追う。今回は、マンション管理のみならず、既存住宅流通や新築マンション販売、建物コンサルなど多様なサービス分野を担う住商建物の松田晋治社長に、重点的に取り組んでいる課題や政策要望などを聞いた。

――管理の質を向上させる取り組みについて。

 松田氏 人材育成や組織の強化策としては「隙のないプロの人材」を育成するために、実際の管理業務で発生した事例を社内で共有し、社員が自分事として研究・実践していくことに加え、担当者のアウトプットの個人差を払拭するために組織としてどう補完できるかを考えている。

 また、約16年前に東京と大阪の別会社を合併し業務共通化を進めたものの、バラつきが残った一部の業務を2019年7月の組織統一をはずみに加速させているところだ。会計帳簿の統一のほか、仲介の重要事項説明様式を統一した上でウェブ化するなど、DXを見据えて手を打っている。効率化で得られた余力は管理組合への提案などに振り向けたい。

 DXはIT化のみならず実務や働き方を変えていくことに主眼がある。そのためには各担当者の実務の透明化を進め、他の物件事例と共通できるルーティン部分は統一し、個別対応が必要な部分には物件独自の工夫を施すなど、効率化できる部分と付加価値をつける部分とを整理する必要があると感じている。

――今後の業界の見通しは。

 松田氏 「終の棲家としてのマンション」という意識が居住者に定着してきた。共用部だけでなく専有部分のリフォームのほか、高齢者施設へ入居の際のマンションの売却や賃貸へのサポートなど、長く住み続けた後も、資産価値として維持すべくサポートする役割が管理会社に問われていると思う。当社が有するフルライン機能を強みとして発揮していきたい。また、マンション管理業協会が議論を進めてきたマンション管理適正評価制度を当社も意識しながら、資産価値の維持・向上に貢献していきたい。

 その一方で、居住者にとって出費対象として納得感がある管理サービスを提供できているか、さらに突き詰める必要がある。居住者にとって管理会社の提供するサービスが「空気」のような存在になり過ぎてしまい、恩恵を受けていると実感しにくいことが、管理コスト削減や管理会社の見直しの動きに向かわせてしまう。ひいては管理会社同士の安値競争につながり、適正な管理ができない事態に陥ってしまう。この連鎖を改善するためには居住者に管理業務の内容と重要性を理解してもらい、中長期的な視点での提案や綿密な組合とのコミュニケーションを取る管理会社の努力が不可欠だ。

 改正適正化法の下、ITによる重要事項説明や管理事務報告などが実施可能になり、そのメリットを最大限に生かす規約の改正や実務環境の整備等を組合に提案していく必要がある。しかし、忘れてはならないことはITリテラシーのギャップを十分認識し、IT活用が十分にできない人を置き去りにしないよう組合の事情に沿ったルール作りや環境整備が必須であるということだ。そしてITの利便性を活用しながらも人間同士のコミュニケーションや仲間意識、信頼関係をどう構築できるのかを、常に考えながら進めていきたい。

マンションを公的存在と位置づけ 柔軟な制度構築、支援を

      

――政策要望について。

 松田氏 マンションを避難所やコミュニティの拠点といった公的存在であると位置付けて、補助や免減税に取り組んでほしい。適切な管理が行われているマンションを街づくりの観点からも推奨するという考え方は、管理計画認定制度などの創設によってマンションの公的な位置づけをさらに明確にしたと考えられる。修繕積立金の課税所得からの控除や大規模修繕での耐震・水害・災害全般に対する個別工事での消費税非課税や税率減免などを検討してもらいたい。

 例えば機械式駐車場の撤去費の補助や余剰駐車場の外部貸し出しへの非課税など、建物と居住者の2つの高齢化という視点から、組合財政がひっ迫している現状を踏まえた柔軟な制度の構築を望んでいる。加えて、時代の変化に合わせた法制度の再構築や見直しを行い、駐車場附置義務台数の柔軟な運用や容積率緩和・建替え・改修工事の後押しとなる法律運用をしてもらいたい。

 新たなトレンドとしてDXやSDGsを進める事業を後押しする支援を考えてもよいのではないか。例えばDX分野ではIT理事会や総会をはじめ、対面説明のウェブへの変更、キャッシュレス対応などを進めるための機器の整備費用の補助がより充実してもよい。またSDGsの分野では、バリアフリー改修や断熱サッシ、防災備蓄のほか、太陽光発電設備の設置への補助や高齢者が管理員として仕事をしてもらう際の研修費や採用補助費用なども考えられる。政府が2050年のカーボンニュートラルを目指すなか、ESGやSDGsの視点で後押しできる取り組みにも政策としてサポートしてもらいたい。

松田 晋治(まつだ しんじ)氏

1960年10月3日生まれ。京都大学法学部卒。1983年4月住友商事㈱に入社、2006年1月同社住宅・都市事業部副部長(大阪)就任、2008年6月住商建物(株)取締役就任、2010年6月同社代表取締役常務 大阪支社長就任。2015年4月エス・シー・ビルサービス(株)代表取締役社長を経て、2016年10月住商建物(株)代表取締役社長(現職)。

2021/4/5 月刊マンションタイムズ

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