多くの訪日客が押し寄せていた分、人出や地価の反動減も大きいのが心斎橋や道頓堀など大阪市の中心繁華街だ。道頓堀1丁目では地価が前年実績を28・0%も下回る場所があった。大阪では、昨年11月から1月末にかけて発生したとされるコロナ感染の第三波が地域経済に深刻な傷を残した。このため1月1日時点の集計値である今回の公示地価にはコロナ禍の影響が十分に反映されていない可能性もある。
同じ中心部の繁華街でも、訪日客の消費に支えられていたドラッグストア(DS)が主体だった心斎橋筋商店街と、高級ブランド店が並ぶ隣の御堂筋では不動産評価の明暗が分かれる。JLL関西支社の山口武リサーチディレクターは「心斎橋筋からは一般賃料の倍額を負担していたDSが撤退し、借り手優位になっている」と指摘する。一方、御堂筋では「ブランド店に慌てている感じはなく、退去も増えていない。大阪のリテール市場を考える上で前向きな材料だ」という。
山口氏はこう続ける。「大阪は世界中から多くの観光客を呼び集めた。それも日本人が来ないから外国人に頼っていたという構図ではない。不動産の収益力は一時的に落ちたが、都市の求心力は落ちていない」。
主にホテルが大打撃を受けた観光都市の京都とは異なり、大阪ではホテルと商業施設の両方がコロナ禍で痛手を負った。ただホテルは昨秋以降、浮沈はあるものの復調の兆しが見える。大阪や東京、福岡などでホテルの開発・運営を手掛けるサムティの小川靖展社長は「ホテルリートが回復してきた。住宅や物流施設よりもホテルの戻りが大きいと市場に評価されている証しだ」と話す。小川社長によると「好立地のホテルを買おうにも値崩れがみられない」という。近距離旅行などの需要が強まっており、同社が保有するホテルの平均稼働率も3月上旬時点で40~50%を保っている。
東北の中心地である仙台の地価は住宅・商業地ともに上昇した。ただ多くの飲食店が集まる歓楽街、国分町2丁目の地価は5・1%減と市内で最も大きく下げた。国分町からJR仙台駅にかけての商店街でも閉店や郊外移転が増えている。
CBRE仙台支店によると「従来は退去が出なかった大型物件にも空きが生じるようになり、それらの多くが空いたままだ」という。ただ「いち早く後継を決めようとフリーレントや賃料値下げに応じる貸し手も多く、逆張りで好立地への出店を目指す事業者もいる」(同)とも。事業者が繁華街から郊外の商業モールに目を移す傾向がコロナ前からある。仙台に限らず、繁華街の事業者らは戦略の見直しを迫られている。
福岡中洲は多くの店舗休業も人出は戻る
福岡市の地価も上昇が続く。訪日客が急減したにも関わらず市内の地価は前年実績を上回った。地価上昇の原動力となっているのは博多駅周辺や都心近郊のマンション適地だ。連鎖型再開発の「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」なども地価上昇に寄与している。市内でビルの空室はじわりと増えつつあり、地元関係者には警戒感もある。9月以降に連鎖型再開発のビルが段階的に竣工する。ただ竣工時期は分散しており、「一気に空室率が上昇することもないだろう」(市内のビル賃貸業)との見方がある。
天神などの中心繁華街では緊急事態宣言の影響が色濃く出た。中洲地区では200~300件の店舗が休業に追い込まれたとも言われる。ただ回復ピッチも早い。福岡県では2月末で宣言が解除されると繁華街に人出が戻り、大型商業施設「キャナルシティ博多」(福岡市博多区)では「来場は前年と同じ時期より1~2割多かった」(福岡リアルティ)という。不動産の売買取引も「持ち込まれる案件に値崩れしているものはほとんどない。住宅や物流施設はコロナ以前とほぼ変わらない水準」(地元の不動産会社)で、「投資家の取得意欲も依然として強い」(同)という。
市内ではコロナの収束後を見据えた動きも出てきた。星野リゾートグループは今月18日、大型ホテルの「グランドハイアット福岡」(博多区)を取得する方針を決めた。アパグループも博多駅周辺や天神地区などに集中出店を続けており、9日には同駅前に2つのホテルを同時開業した。こうした動きは福岡の宿泊・観光産業が再び活気づく予兆とも映る。(日刊不動産経済通信)