日本司法書士会連合会、所有権放棄・国庫帰属は柔軟な運用を

日本司法書士会連合会は、法務省が近く通常国会に民法・不動産登記法の改正法案と、土地所有権の国庫帰属を認める新法案を提出することに伴い、都内でプレス向けのセミナーを行った。今川嘉典・会長らが相続登記義務化に伴う課題と、今後の司法書士会としての対応の仕方などについて説明した。

国庫帰属・ランドバンク制度など政策支援が必要

  所有者不明土地問題が発生している理由は、相続登記が相続人個人の自由に委ねられているため。土地基本法でもその土地の管理等はあくまで所有者の責務であるとし、努力義務に過ぎない。今後所有者不明土地を生み出さないため止むを得ず、相続に限り登記義務化が導入されたのが実情だ。日本司法書士会連合会の今川嘉典会長は、登記制度の観点から「これまで登記が義務であったことはないので、導入には異論があったとは思うが、登記が義務化されることは画期的」と評価する。

 では相続登記義務化で所有者不明土地問題は解消されるか。所有者不明土地問題が発生している大きな理由は、相続登記がされていない、もしくは住所変更が登記に示されていないことによって、登記簿から直ちに所有者がわからないためだ。今川会長は「相続登記義務化によって一定程度は解消するだろうが、だがそれだけで所有者不明土地問題の全てが解決するわけではない。不動産を管理しようと思っていてもできない、あるいはそもそも所有したがっていないとか、流通に乗せようにも難しい土地がある。それは法律でなく政策的なアプローチが重要。例えば『ランドバンク』システムを取り入れたり、柔軟な国庫帰属制度が求められてくるのではないか」と述べた。相続登記を怠ると10万円以下の過料という罰則が課される。「過料となるケースはかなりレアケース」(同連合会)であるとした上で、登記の義務化による国民負担軽減のため、税制改正要望等で登録免許税の軽減などを求めていく方針。

国庫帰属は需要の1%、柔軟な制度運用を

 相続等により取得した土地の所有権の国庫帰属制度では、10年分の土地管理費に相当する金額を納付する必要がある。具体的な計算式等は政令で定められるが、2月24日に開かれた政府の「所有者土地等対策の推進のための関係閣僚会議」では参考として「200平米の宅地」の場合10年分で「80万円程度」との試算が示されている。

 国庫帰属の対象となる土地は、①建物のある土地、②担保権等が設定されている土地、③通路その他の他人による使用が予定されている土地④土壌汚染土地⑤境界不明・境界に争いがある土地、⑥崖地、⑦管理処分を阻害する工作物等がある土地、⑧除去しなければ管理・処分ができない有体物が地下にある土地、⑨隣接地の所有者等とトラブルがある土地、⑩管理・処分に費用や労力が掛かる土地ーに全て該当しないものとしている。例えば山林の場合は境界を明らかにすることが難しいなど、各条件のクリアにはハードルが高い。法務省では土地の国庫帰属ニーズのうち上記10条件をクリアする土地は「1%程度」と試算している。

 1%しか需要を満たせない点について、制度の実効性をどう見ればいいのだろうか。今川会長は、「1%で良し、とするのか否かは、政策の判断が入ってくる。法律の附則によると5年経過時点で見直しの可能性もある。需要に応えているとは言い難いとするならば、そこで何らかの判断が働くのではないか。法務大臣には一定の裁量がある。そのため制度の運用についてはできれば柔軟にしていただきたいと思っている」とした上で「土地基本法では土地所有者に管理・利用・流通を適切に行うとの責務がある。国庫帰属させるとするならば、個人の責務を放棄するということだ。責務と放棄のバランスどうとるか。国が管理するということは、その費用の原資は国民の税金であり、そのバランスを見る必要もある」と述べた。

 国庫帰属を希望するユーザーに対して司法書士はどのようなサポートが可能か。今川会長は「現地調査も必要だろうし土壌汚染や除去が必要な有体物の処理であるとか、こうした事象が全てわかる専門家はいない。そこは司法書士だけでなくて、他の士業とも連携して対応していきたい」と述べた。

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