道路復旧には時間も、マンションは健全 ―液状化も早晩回復か、個人投資家が物色
首都圏で震災による被害が最も大きかった千葉県。九十九里を襲った大津波により、銚子市の西隣り、旭市は死者18名、建物の全壊427棟、半壊335棟と、県内で最大の被害となった。これに続き被害が多かったのが東京湾岸エリアの浦安市や千葉市、習志野市だったが、いずれも死者はなく、その被害は建物に集中した。 液状化現象に起因するとみられ、特に浦安市は、全壊が8棟だったが、半壊470棟にライフライン関係で断水住戸が3万3000戸。4月上旬の上水道に続き、15日には下水道が復旧完了し、いわゆるトイレ難民からの解放は、市サイドも「市民生活が一定回復した」(浦安市公聴広報課)と判断する出来事でもあった。とはいえ上水道は、外付けでプラスティック製の緊急用水道管で対応しているエリアもなお存在する。JR京葉線新浦安駅では、駅前広場に降りる階段とペデストリアンデッキとの接続部が分断され、なお使用不能のままであり、広場に降りるエレベーターも地上部周囲が崩落したまま使用できない状態が続いている。路面の水は引いたが、道路はところどころに隆起が起きている。市では現在、被害の大きい日の出、今川、舞浜、富岡、美浜各地区の道路側溝を塞ぐ土砂取り除き作業を行っている段階であり、なお道路の完全復旧までには時間がかかりそうである。 ベイエリアで、東京ディズニーランドを擁し、リゾート風の街並みで人気の浦安エリアだったが、今後はどうなるのか―。新浦安地区が主力の独立系不動産会社によると、4月1日から入居契約していた賃貸住宅物件約50件は、断水が続いていたため、すべてキャンセルになった。また、これまで賃貸斡旋した約500件から、「家が傾いている」「水が飲めない」「トイレが使えない」といった苦情が殺到し、中には「家賃は払わない」と言い出す入居者もいた。一方、3月中の売買斡旋は20件ほど予定していたが、その8割方は中古マンションで液状化の被害はなかった。断水状態とはいえ、違約金を払ってまでの解約申し出はなく、決済・引き渡しが行われた。だが、残りは戸建て物件で家が傾く被害が起こり、買い手側がキャンセル。なお、明確にキャンセルに至っていない物件もあるが、同社は取引の停止を薦める。特に、ひどかった地区として、舞浜、高洲を指摘。売却を見込んで買換えを先行させた売り主もおり、手付金を巡りトラブルに発展する可能性もある。 ただし、既にキャンセルが発生した高洲で9600万円だった戸建て物件に、約2割安の7800万円で個人から購入オファーが入ったという。購入目的は不明だが、富裕層向けにアセットマネジメントを行うある不動産会社は、「数億円のレジデンシャルを物色していた個人投資家ニーズが浦安にも向かっている」と明かす。今後の新浦安における取引水準に関して、先の独立系不動産会社社長は、「当面、マンションは売り急がなければ1割ダウン。戸建ては土地値で2割ほど下がるのではないか」とみる。 震災前の3月7日、千葉県企業庁から、高洲の戸建て用地約4・7haを落札したパナホーム、トヨタホーム、ミサワホームの3社連合は、「現時点で計画に変更はない」(竹中宣雄・ミサワホーム社長)とするが、地盤調査を行うなど、時間をかけ、慎重に購入を判断するとみられる。一方、既に昨年、3社連合で購入済みの日の出の戸建て用地約7・4haは、土地に被害はなし。宅地造成を進め、年末にも販売開始を計画していた。ただ、販売は、来年以降にズレ込まざるを得ない見通し。ミサワホームでは今後、液状化に対する対策方針をまとめることにした。 95年の阪神・淡路大震災でポートアイランド地区の液状化をみてきた不動産鑑定士の新玉正男・山陽不動産鑑定代表は、「マンションは支持杭を打ち込んでおり、建物被害はなかった。間もなく浸水も引いたため、不況下だったが、不動産価格は1~2年で戻した」と振り返る。コストをかければ、戸建てでも液状化対策は可能だが、ある地盤調査会社は、「一度、液状化すると水が出て地盤が締まり、同程度の震災なら液状化は起こらないとみている」ともいう。インフラと街並みの復旧に伴い、早晩、新浦安住宅マーケットは回復するとみられている。同時に、新浦安では液状化現象の検証が急務だ。
(2011/04/21 日刊不動産経済通信)
浦安市の液状化、完全復旧まで最低3年
千葉・浦安市の松崎秀樹市長は11日、明海大学で行われた日本マンション学会報告会で講演し、液状化の被害があった地域について「完全な復旧まで最低でも3年はかかる」との見解を示した。 市内のライフラインは、ガスが3月30日、上水道が4月6日、下水道が同15日にそれぞれ復旧したが、松崎市長は「細かな土砂が水道管や下水に流入し、市内約120㎞の側溝や道路を土砂が埋め尽くした。まだまだ応急復旧を一時終えているだけ」と説明。本復旧まで相当の時間を要するもようだ。 東日本大震災による浦安市内の液状化被害面積は約1455haで、市の面積の86%にものぼる。下水道が破損した地区の面積は約820ha。浦安市は、64年から埋め立て事業をスタートさせた。埋め立てにより市の面積は4・43km2から16・98km2へと約4倍に拡大した。現在の人口は16万5000人で、1km2当たり1万人という人口密度の高さからわかるように、市内にはマンションなどの集合住宅が多く、住宅の約8割を占めている。 浦安市は、液状化で深刻な被害を受けた45管理組合に対し、上・下水道、電気、ガス、電話、通信設備などのライフライン補修費を最大3000万円補助することを決定している。補修費用を銀行などから借入れる場合は、市が利子を5年間補助する。「市の方針のもとでマンション・集合住宅の誘致をしてきた。きちんと市が責任を持とうと議論した」(松崎市長)。 市長は復旧まで最低3年と明言したが、液状化地域に対する住宅購入者のスティグマ(心理的嫌悪感)解消にはそれ以上の時間が必要と関係者はみている。 (2011/06/14 日刊不動産経済通信)
新浦安の不動産取引が戻る、価格は下落
11年度都道府県地価調査では、7地点で調査を見送った新浦安エリア。千葉県庁県土整備部用地課土地取引調査室は、今回調査を見送ったことについて「鑑定評価の実施に問題はないが、地価の基準点としてそぐわなかった」と話す。同じ液状化したエリアでも、個別の土地で被害にばらつきがある。基準地点の地価が分かってもその周りのエリアの地価の参考になるとは限らないため、「調査を見送った」という。 浦安市では、国道357号線を境に海側一体で液状化現象の被害を受け、震災直後は不動産取引が止まった。地価調査を見送ったこれらの地域で不動産取引は行われているのか。明和地所新浦安本店情報部の南澤悦郎課長によると、「マンションの取引件数は昨年の今頃と同じくらいの件数で推移している。戸建て・土地取引については例年の半分程度」という。ロイヤルハウジング販売モナ新浦安ショップ営業部の宮嶋淳一所長も「マンション取引は5月頃からほぼ例年並みに推移し、戸建て・土地取引は8~9月頃から動き出した」と話す。足下の取引件数の動きは、マンションが例年並み、戸建て・土地はまだ弱いというのが共通認識のようだ。ただ宮嶋氏は、「来年に入れば戸建て・土地取引も例年並みに推移するのでは」と、取引件数は徐々に正常化すると予想する。 液状化したエリアの取引価格の推移について南澤氏は、「マンションは震災前の5~10%下落で取引価格が推移している。海側に立地したマンションでは、敷地内で液状化被害を受けた物件もあり、そうした物件は震災前の10%ダウン程度の価格で成約している」と話す。戸建て・土地の取引価格は、宮嶋氏によると「震災前から20%前後の下落で成約している」。ただし「下落分を液状化対策の工事費に充てればおつりが来る程度」(宮嶋氏)で、20%前後の下落率がそのまま需要の落ち込みを反映しているわけではなさそうだ。 (2011/10/06 日刊不動産経済通信) 11年路線価、液状化エリアは約4割減額 国税庁は1日、11年路線価の調整率を発表した。相続税・贈与税の算定基準となる路線価は、毎年1月1日時点の価額が適用されているが、今年は3月11日に東日本大震災が発生。震災による地価下落を路線価に反映させるため、調整率を定めた。 調整率は、建物被害、社会インフラ被害、経済活動の縮小、液状化などを減価要因として算定した。11年1月1日時点の路線価に調整率を乗じた価額が、震災後の価額となる。調整率が適用される地域は、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県など。調整率は各地域・土地用途で異なり、震災で甚大な被害を受けた岩手・宮城・福島の沿岸部の宅地は、0・20~0・30となっている。千葉県浦安市で液状化の被害を受けた宅地の調整率は0・60~0・70。 福島第1原発の事故で、警戒区域、計画的避難区域、緊急時非難準備区域に指定された地域は、調整率を定めることが困難なことから、相続税・贈与税の申告の際、同地域の土地等の価額は0とする。 (2011/11/02 日刊不動産経済通信)
浦安市、明海大、民間9社が連合立上げ
浦安市と明海大学は、災害に強い環境配慮型都市の構築に向け、大和ハウス工業など住宅・不動産や電機メーカーなど民間9社と「浦安フューチャーシティコンソーシアム」を立ち上げ、25日、設立総会を開催した。今後、産官学共同での同市沿岸部を中心とした街づくり計画を進め、来春に計画書をまとめる。 参加企業は大和ハウスのほか、スターツグループ、トヨタホーム、パナホーム、ミサワホーム、富士通、富士電機、三井物産、三菱UFJ信託銀行の9社。東日本大震災による液状化現象の被害をふまえ、市全体のブランド回復と防災と環境に配慮した街づくりを目指す。液状化現象でイメージダウンした土地を安心して使えるよう定期借地権の利用や、底地のファンドによる一括所有、住宅やビルの省エネ・創エネ以外に電気自動車や電気バス、エネルギーマネジメントシステム整備など環境施策を検討。中長期的に街づくりに必要な財政や金融のあり方、規制緩和や新法の提案も行う計画。 参加企業のうち、スターツは浦安市で分譲事業を多く手がけているほか、トヨタホーム、パナホーム、ミサワホームは共同で日の出地区で7・4ha、高洲地区で4・7haの戸建て分譲を予定。大和ハウスは減災や環境配慮型の街づくりに注力している。浦安市のイメージ回復や次世代街づくりのため、今回の事業に注力するとみられる。 松崎秀樹市長は、総会冒頭の挨拶で「震災で市の86%にあたる埋立地域は想定外の事象が起き、都市災害の悲哀を味わった。国の災害査定も終わり、新たな付加価値を付けた街づくりを行う。住宅地のイメージアップこそ復興につながる」と述べた。
(2011/11/28 日刊不動産経済通信)