震災で売買仲介は大幅減、キャンセルも
―法人仲介は様子見、アジア投資家は活発
震災による影響で、首都圏の売買仲介マーケットは大きく沈み込んだ。東日本不動産流通機構によると、震災翌日の3月12日から31日に掛けての1都3県の中古マンション売買の成約件数は、前年の同期間と比べ1都3県平均で約25%減少した。浦安や幕張などの東京湾岸エリアを抱える千葉県の成約件数は46・4%減の164件と大きくダウン。
リテール仲介部門をみると、ある大手不動産流通会社は震災前に比べ、新規の買い顧客が5割減、売り顧客が3割減となった。千葉県エリアに強い専業デベロッパー系の流通会社は買い手からの反響が4割減。
契約間近のキャンセルも続出しており、先の大手流通会社のリテール部門によると、「残金決済のみの客でキャンセルになったのは数件だが、3月の売上計上予定数字の25%はキャンセルになった。震災によってひとまず様子を見たいという声が多い」。都心部の高級物件では震災直後の株価下落がユーザー心理に影響した。ある財閥系大手流通会社の都心事業部門によると、港区虎ノ門の1億円超の中古マンションが契約までの最後の詰めの段階で震災が発生、14日以後の日経平均の急落を嫌気して、買い手は数百万円の値引きを要求。結局、契約は流れた。「リーマン・ショック後も調整まで時間が掛かった。今後は『震災後価格』を織り込んでいかざるを得ない。不動産価格は下がるだろう」(同社営業担当者)とみる。
特に液状化現象が指摘されている湾岸エリアの物件は「価格下げ圧力が強まる」(ある大手流通)とみられる。先の東日本レインズの3月単月の千葉県の中古マンションの売買成約件数をみると、千葉市や浦安・習志野などの湾岸エリアは前年同月比3~5割のマイナス。「もう『浦安神話』は終わった」(先の財閥系大手流通の営業担当)という声も。一方、千葉県でも松戸や柏など山側のエリアは2割以上のプラス。「湾岸エリアで液状化現象が起きたエリアの戸建てから、千葉ニュータウンの新築既分譲マンションに転居」(専業デベ系流通会社幹部)した事例もある。ある専業デベ系流通会社の法人仲介部門では震災後、23区内に投資する個人投資家から、今後は23区でも城東地区を除いたエリアの築浅物件を紹介してほしいと依頼されており、「個人は地域や築年にかなり敏感になっている」(同社)。
建設資材の不足で建売向け取引が減少
土地の有力な買い手であった建売業者向けの取引が大幅に減った。建設資材不足が影響し、在庫回転期間が短い建売業者にとって、事業スピードが大幅にダウンするリスクがでてきたためだ。建売業者は、「資材不足による事業期間長期化のリスクを見込んで、ギリギリになって買い値を下げてきた」(ある財閥系大手流通)ほか、「在庫を素地のまま売却することを検討している」。
法人仲介市場では、「リートへ売却予定の案件など10件近くが震災後に延期、あるいはキャンセルになった」(ある大手流通法人部門)。リートへの売却案件は数十億円規模の築20年超のオフィスビル。3月末までに決済の予定だったが、築年数が経過していたため、震災後に買い手から再度のデューデリを求められた。「売主は売却期間の延長を考えておらず、キャンセルとなった。取引の復活は見込みにくい」(同)。一方で逆張り戦略とみられる突発的な買い手も出現。別の大手仲介会社の法人部門には「3月末で流れたディールについて買いたいという個人投資家やファンド、商社系デベなど数社から連絡が入った。ただしディスカウントしてくれるなら、という条件付きの話がほとんど」(同社担当)。今後については「国内の復興需要から工場用地や物流用地などの需要が増える」(同)と予想している。
買い手となる外資系ファンドや個人の多くは、当面様子見だ。ただし外資を含めて今後日本に投資を行わないという声は聞かれない。バルク案件の入札ではグローバル投資家の応札が活発。アジア地域への進出を強化するある大手流通会社の法人部門の幹部は「様子見姿勢は欧米系のファンドなど。欧米の投資家は原発リスクを過大に見積もっている。一方、台湾や香港などアジアの投資家は地震や津波に対する関心が高い一方、原発問題についてさほど心配していない」という。同社はアジア地域における日本不動産投資セミナーを5月以降に再開する。
(2011/04/12 日刊不動産経済通信)