事故物件を歩く⑪ 事故物件も周辺相場と同等価格で流通、担保評価は立地で差ーMARKS
Marks 花原社長

心理的瑕疵物件(事故物件)特化型のポータルサイト「成仏(じょうぶつ)不動産」を運営する㈱MARKS(花原浩二社長、旧社名=NIKKEI MARKS)は、東京・新宿のマンションのリノベーション工事を終えた。シリーズ「事故物件を歩く」①で紹介した、孤独死があった築20年のマンションだ。南東向きの角部屋で、アクセスは「西新宿五丁目」駅から徒歩数分と好立地。現地で花原社長に物件のリノベーション工事のポイントと、他の物件の販売状況、事故物件の最新の流通事情についてきいた。

―これまでの経緯について

花原氏 マンションの専有部内で孤独死した40代男性の遺体が発見されたのが20年6月。遺体発見後にこの男性の相続人から弁護士、不動産業者を通じ当社へ相談があった。まず特殊清掃のやり方を検討してから、8月20日に売買契約を締結、その2日後に特殊清掃を行った。特殊清掃は当社が自ら行った。決済・所有権移転が9月末。11月からリノベーション工事に入り、今年1月に完成した。

―リノベーション工事で3カ月掛けたということか

花原氏 工事の途中でリフォーム内容の変更を行ったため、工期が想定より伸びた。例えば天井高を上げる工事を行ったり、床材を選び直したりという作業が発生した。床材には人工的なフローリングマットではなく、木材を使いたかった。今回この部屋の床材は、国産材(北海道産)のナラの無垢材を使っている。この物件は事故物件だから、床が暗めの色であったり、無機質な感じであると、冷たい印象になり、リフォームを行っても事故物件を想起しやすい。壁は塗り壁だ。一般的に壁はビニールクロスだし床材もビニールだ。この物件は成仏不動産での事故物件リフォーム第一弾だったので、快適な空間にするために自然な素材を使ったりと内装に力を入れた。今回の一番のテーマは事故物件のバリューアップ。言葉で事故物件と聞いても、リフォーム後の物件を実際に見ると印象が全く異なるというギャップを作りたかった。

―自然な素材感が感じられ、女性向けのかわいらしい印象だ

花原氏 当社の会員「成仏倶楽部」(会員数約100名)のうち6名が見学に来て、評判は上々だった。こちらのイメージとしては、購入される方のターゲットとして、若い、新しい感性を持っている方に買っていただきたいなと思っていた。その狙いは概ね的中して、単身女性が実需目的で購入した。物件を実際案内する前に、サイトの写真を見た段階で購入希望を伝えてこられるなど、非常に気にいられた様子だった。

―銀行からの担保評価について

花原氏 この物件については、リノベーション工事費用などを含めた仕入れ価格よりも銀行からの担保評価は高かった。今回は地銀から借り入れたが、銀行によって事故物件に対する減額幅がまったく違っている。今回は個別案件ということで、立地も良かったので融資がついた。

―売却価格について

花原氏 立地やリノベーションの内容などを評価していただき、価格は3150万円をやや上回った。事故が無くて一般的なリフォームが行われた物件であれば3200万円で流通しており、事故物件だからといって価格の乖離はほとんどなかった。

―「西新宿」以外の物件については

花原氏 ほかに孤独死物件で先月に完成した神奈川・横須賀のファミリータイプの実需向けのマンションと、完成したての東京・新宿区内の1Kマンションがあって、3物件ともあっというまに売れてしまった。「横須賀」は実需、「新宿」は投資とみられる方が購入した。

―物件取得時のローンについて

花原氏 「横須賀」は購入価格プラスリノベ費用に対し、地元の金融機関からの担保評価はその3割程度しかでなかった。保証協会付きの融資でこの金額であり、ほとんど担保評価がでないということだった。一方「新宿」については都心物件で場所が良いので、地銀からほぼ満額の融資がついた。今回3物件が早期に売れたことで、金融機関からの評価も前向きになるかもしれないと期待している。

―エンドのローンについて

花原氏 「西新宿」の購入者は住宅ローン専門金融機関のフラット35で、「横須賀」は都市銀行が住宅ローンを出している。「新宿」は全額が現金だった。事故物件でも住宅ローンはそんなに難しくなくて、これが投資用になるとハードルが上がる印象だ。実需と投資で融資の基準が異なるのかもしれない。

―広告などはどうしていたか

花原氏 自社のポータルサイト「成仏不動産」とSUUMO、そして楽待に情報を出していた。3物件ともそうだが、リフォームが完成して契約までは2週間前後で決まっている。「西新宿」は工事完了後の2月頭に情報を出して、2月15日契約した。「横須賀」も同時期に売却している。この物件は1月11日に成仏不動産とSUUMOに掲載して1月末に成約している。「新宿」が、リフォームを完成させて2月8日から売り出し20日に契約した。異常にスピードが速い。一年で不動産が一番 動きやすい時期というのもあるかもしれないが。

―売れた理由をどう分析するか

花原氏 事故物件も気になる人と気にならない人で二極化している。世間では事故物件の購入は憚られると思われるが、これら3つの物件の購入者はみな「全く気にならない」と言っていた。欲しい人にとっては人が死んだだけでしょと、いまのリフォーム済みの状態しか見ていなければ、昔の話と感じる方もいるのかもしれない。だから思ったよりは下がらない。心理的瑕疵物件といっても段階があり、孤独死までであれば、便利な場所であればそんなに下がらないというイメージができた。「新宿」も想像より高く売却でき、「横須賀」も横須賀では一等地といえる場所で、いい場所であれば事故があったとしても、そこまで下がるリスクはないのだろうと思っている。買われる人も成仏の商品だからと、信頼して買っていただいている。これが一般で売り出してみたらどうなるかはわからないが。イメージを変えることで、一般の流通価格とそん色ない価格で売れるのだろう。

―他殺系はどうか

花原氏 他殺があった物件を一物件保有している。この物件は賃貸用途としていく。もう少しでリフォーム工事が完成する予定だ。いま募集を6万円台で出している。場所は横須賀のバス便の中古マンションだ。バス便だが部屋は広めで3LDKある。周辺で同じような広さ・間取りのマンションだと10万円近い。他殺は重たい。投資家だと安いという前提だが、孤独死・自殺・他殺関係なく買ってくれそうな雰囲気はある。ただし実需層が購入するにはまだまだ意識のハードルは高いと思う。

―今後の戦略について

花原氏 今回の「西新宿」のように、完璧なリノベーションをすべての物件で行っているわけではない。「戦略的リノベーション」と呼んでいるが、イメージを一新する、バリューアップを追求するようなものもあれば、どれだけコストを低く抑えるか。物件ごと、個別にどのようなリノベが最適かを考えて行っている。リノベをほとんどしないものもある。たとえば投資家からは、清掃だけして臭いの元を取ってさえくれれば、そのままの状態で買いたいという人もいる。価値の最大化が大事だ。売却想定価格と、最終的な売却価格の差をみながら、それが正解だったか不正解だったか検証する作業が必要だ。

MARKSの花原社長
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