シリーズ;事故物件を歩く⑥ 孤独死の現状分析(上)

自殺者数の増加が取り沙汰されるようになった。自殺の場所が自室であれば、それは孤独死となり、事故物件化する。孤独死の現状について、増えているのか、減っているのか。そして年齢、性別、地域、物件の特徴はどのようになっているのか。孤独死が発生した場合のオーナーや、管理会社、相続人の備えはどのようにすればいいのか。一般社団法人・日本少額短期保険協会の副会長で、アイアル少額短期保険社長の安藤 克行氏に、孤独死の現状と、少額短期保険が果たすことができる役割などについてきいた。

アイアル少額短期保険 安藤 克行社長

 ―少額短期保険協会として、孤独死に対する取り組みについて

 安藤氏 少額短期保険協会の加盟会社は108社。2015年に協会設立10年目として協会の社会貢献活動の一環として、孤独死の実態がどういうものか、データがないのでそれをまとめてみようと。少額短期保険協会内に「孤独死対策委員会」を発足させて、2016年から毎年「孤独死レポート」を取りまとめている。私が日本で初めて単独の「孤独死保険」を開発して以降、少短保険各社が「家主型」と「入居者型」2種類の「孤独死保険」を発売していた。「孤独死レポート」は18社のデータを集めてレポートとしている。

 ―孤独死の現状について

 安藤氏 単身者が増えていて、男性と女性は比率が83対17。平均年齢は60歳で、65歳未満の高齢者ではない人が半分以上を占める。50代以下の現役世代だけでみると40%もいる。孤独死は高齢者だけの問題ではないことがわかる。そのことは国交省や厚労省にも情報連携している。

 ―若い人の自殺が増えている

 安藤氏 人は急激な環境変化に弱い。男女別の死因をみると、自殺の割合は女性のほうが高く、孤独死の数は男性が多い。これは委員会としての推測だが、男性は若いうちに仕事を失うなどして、低所得になると引きこもりがちになり、社会から孤立していく。これが60歳で定年ということであれば、それは予定されていた出来事であるために、急激な環境変化ではない。年金が得られない50歳代以下は厳しい。いまは終身雇用ではないし、定職を失うことで、社会から孤立し、孤独死に繋がっていくのではないか。また、女性は若い女性の自殺が多い。女性にとっての大きな環境変化は若いうちにある。30歳前後で結婚や妊娠といったイベントがあり、社会進出が進んだことから、仕事と家庭など子育てとの両立が求められるようになる。そうなると鬱になりやすくなり、自殺につながってしまうのではないか。もちろん亡くなった人の生きざままでは調査をしているわけではないので、推測にすぎないが。

 ―孤独死の時期的な傾向はあるか

 安藤氏 例年1月と8月の発見が多い。数は死亡時点ではなく、発見時点でカウントしている。寒暖差、気温の影響が大きいと思う。夏は熱中症、冬場はヒートショックが原因で、死に至るケースが多い。

 ―発見までに時間がかかっている
 

 安藤氏 女性の半分は3日以内に発見される。一方で男性は発見が遅い。男女差がある理由は、女性に自然に備わっている高いコミュニケーション能力にあると思われる。高齢になっても友達が多く、周囲と繋がっている人が多いからだろう。一方で男性は仕事以外の話ができない。仕事から離れて趣味などがないと、内に籠りがちになってしまう。 一人暮らしだと、気付いてくれる人がいなくなる。付き合いのある特殊清掃会社によると、発見までの平均期間は、男が2週間、女は1週間出そうだ。第一発見者は管理会社が多く、発見に至ったきっかけは音信不通だ。地域別でみると、発見までの平均日数は関東では17日だが、関西は13日。関西が全国で最も発見に至る期間が短いが、その理由については不明だ。関西人特有のコミュニケーション能力によるものかもしれない。

 ―その他の特徴は
 

 安藤氏 家賃帯にも特徴はある。アイアル少額短期保険の場合でいうと、北海道(札幌)だと月3万円、関西だと月4万円、東京だと月5万円の家賃帯での孤独死発見事例が多い。いずれの地域も単身高齢者の平均の家賃帯だ。そこでほとんどの事故が起きている。例えば東京で月10万円以上の高額家賃だと事故の事例が極端に少ない。高い家賃が払える人は収入があり、そういう人は仕事をしていて、人との交流があるためではないかと推測する。お金は自分の身体的な健康と、精神的な健康の両方の余裕に繋がっている。

 ―コロナ禍における孤独死の状況は

 安藤氏 調査にもまとめているが、9月末時点での取りまとめであり、データ上は明確にはコロナの影響は出ていないと思っている。会員へのヒアリングでは、4月~5月の事故件数は少なかったが、その後6、7月から増加に転じ、季節要因もあるだろうが、夏から多少発見が増えている。事故は遺体が発見されてはじめて事故となる。そのためコロナによって人の交流が減り、発見されていない事故が増えている可能性もある。 誰からも気づかれないで長期化している孤独死は、結構あるんじゃないかと我々はみている。そして今回のコロナの第3波で交流が少なくなると来年あたり、亡くなってから半年、一年経ったというのが出てくるのではないかと恐れている。

 ―事故物件化する前の備えについて

 安藤氏 事前の対策として見守りサービス、事後的には保険だ。事故が起きないようにするのが一番いいのでまずは見守り。 アイアル少額短期保険HPで幾つかの商品を紹介している。ただし孤独死の現場を見たことがあるか否かで、人の反応は違う。孤独死した人は棺にいれられるような状態ではない。溶けてしまっている。もし一人だったら、すぐに見つけてもらうためにも見守サービスには入って欲しいと切に願う。でも一般的にはまだ、こうした見守りサービスが当たり前の段階には至っていない。入居者とオーナーの関係だと、誰がその費用を払うのかというお金の問題がある。入居者からすれば監視されるのかと訝しげに見る。だから見守りされている感があまりないツールの活用が良いのではないか。

 

少額短期保険協会が毎年まとめているレポート「孤独死現状レポート」

 

シリーズ;事故物件を歩く⑦ 孤独死の現状分析 へ続く

 

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