市場環境が大きく変わる中で ―2020年の分譲マンション商品企画を見る(上)より続く
2020年はコロナ禍で多くの業界が苦境に陥るなか、住宅産業に関しては、売れ行きの悪化も少なく、比較的健闘している。一方で住宅の量的充足が話題となり、新たなマーケットの開拓にも目が向けられていた。市場環境が大きく変わった今年、分譲マンションではどのような新商品が企画されたのか。足元の供給動向を見る。
サードプレイスへのニーズが加速
新しい住宅需要創出へ新たな付加価値を
2020年は、コンパクト化に加え自宅・職場に続く「サードプレイス」を提供する商品企画が増加した。共用部にワークラウンジやオーナーズラウンジを提案し、コロナ前からの流れであるものの、コワーキングスペースの顧客評価が高まるなど、コロナによってサードプレイスへのニーズが加速した。
共用部分に付加価値を提案した事例では、「パークタワー勝どきミッド/サウス」(三井不動産レジデンシャル)で300㎡のコミュニティスペースに個室ブース付リモートワークスペース、会議室などを置き、Wi-Fi、コピー機、電話ブース、コンシェルジュサービスなど本格的なコワーキングスペースを提供。「ブリリアシティ西早稲田」(東京建物)では、地域開放型運営サービス付き会員制コワーキングスペースを設置。セミナーやイベントも開催できる本格的なスペースを用意した。コンパクトマンションでも、「リビオレゾン勝どきnex」(日鉄興和不動産)では、アップデートする共用空間としてオカムラと共同で単身世帯の理想のワークラウンジを提案している。専有部内にテレワークスペース等の工夫を施した物件が急増したことも今年の特徴だったと言える。
専有面積を圧縮したことに伴い、それをカバーする商品企画・ソフトサービスも増加している。「パークホームズ日本橋浜町ザレジデンス」(三井不動産レジデンシャル)は、玄関脇に全住戸トランクルームを設置。間仕切りの工夫により+αのスペースを創出した物件も多く、「イニシア板橋桜レジデンス」(コスモスイニシア)では、居住空間を立体的に分離するユニットを提案。間仕切りとベット兼用のユニットでコンパクトな広さでも間仕切りができるようにした。「ヴェレーナグラン赤羽北フロント」(大和地所レジデンス)では、天井高3mを生かし、床下に21畳・高さ740ミリの大収納を提案している。
また共働きやEコマースの利用といったライフスタイルの変化に対応した付加価値として、「プラウド平和台テラス」ほか(野村不動産)は全戸住宅前宅配ボックスを設置した。最新の家具・家電を定額で利用できる家具サブスクリプション、カーシェアリング、シェアリングエコノミーも進んだ。
コロナ対策としては、非接触エレベーター、24時間・365日全館空調システム、無人コンビニの導入も複数物件で見られた。
コロナによって、これまでの価値観やライフスタイル、ワークスタイルに大きな変化が起こった。「新しい住宅需要を創出するためには、さらに魅力的な新しい商品付加価値の提案が必要となる」(杉原禎之トータルブレイン副社長)。分譲マンション市場を維持していくためにも、商品企画の重要度がますます高まっていくと見てよさそうだ。
2020/12/15 不動産経済ファンドレビュー