賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(4)<br>―不動産業者が知っておきたい新法解説―<br>  森・濱田松本法律事務所 弁護士 佐伯優仁

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(3)
―不動産業者が知っておきたい新法解説―より続き)

実務上の影響
(1)規制を受ける業者の対応


(ア)賃貸住宅管理業者

 賃貸住宅の所有者から委託を受けて賃貸住宅の管理業務を行う管理業者は、これまで任意の賃貸住宅管理業者の登録を受けていた者もそうでない者も、原則として2021年6月施行後は本法に規定する賃貸住宅管理業者の登録を受けなければならなくなる。ただし、登録を受ける期限は、施行日から1年の猶予がある。それまでに、登録要件である財産基盤を満たし、業務管理者を選任する必要がある。そして、本法に規定する賃貸住宅管理業者の義務を遵守し履行して事業を行うための態勢を整備する必要がある。
なお、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて賃貸住宅の管理業務(維持保全業務等)を行う管理業者は登録を受けることが必要となる。いわゆるプロパティマネジメント(PM)業務を行うPM業者は基本的にこれに該当すると考えられるが、ビルディングマネジメント(BM)業務を行う業者も業務内容によっては該当し得るだろう。これらの業者は宅地建物取引業者であることも多いであろうが、その場合は事業所等ごとに置かれている専任の宅地建物取引士が業務管理者となり得ると考えられる。

(イ)サブリース業者

 また、賃貸住宅の所有者からマスターリースを受けて転貸事業を行うサブリース業者は、2020年12月施行後は本法に規定する特定転貸事業者の義務を遵守し履行しなければならない。これに関して経過措置は定められていないため、施行日までにかかる義務を遵守し履行して事業を行うための態勢を整備する必要がある。
 なお、サブリース業者が形式的にはマスターリース契約(賃貸借契約)のみ締結しているものの、実態としては賃借した物件の管理業務も行う場合があり得るものと思われる。この場合、管理業務はあくまで賃借人の立場として行うものであって、賃貸住宅管理業の定義にいう「賃貸人から委託を受けて」行うわけではないとして、賃貸住宅管理業の規制は及ばないのか、あるいは実質的には賃貸人から委託を受けているとして規制は及ぶのかは明らかではないように思われる。ケースバイケースの判断になり得るかもしれないが、いずれにせよガイドライン等で明確化することが期待される。

(2)不動産私募ファンド・REIT


(ア)PM業者とマスターレッシー

 不動産私募ファンドおよびREITが賃貸住宅、いわゆるレジデンス(レジ)物件を保有する場合、物件の管理運営業務はPM業者に委託される。また、物件所有法人(合同会社:GK、特定目的会社:TMK、REIT、信託受託者等)が多数のテナントを管理する煩雑さを回避するため、物件を一括で賃借しテナントに転貸するマスターレッシーが置かれることが多い。この場合、PM業者は基本的に登録賃貸住宅管理業者である必要があろう注。そして、PM業者は、委託者に対し、PM契約の締結前および締結時に書面を交付する。また、管理業務の全部の再委託の禁止、分別管理、委託者への定期報告等の法令上の義務を負うことから、その義務の内容をより具体的にしてPM契約に規定することが考えられる。
 そして、マスターレッシーは、マスターリース契約の締結にあたり物件所有法人に対して契約締結前・締結時書面の交付をしなければならない等、行為規制を受ける。ただし、マスターレッシーと物件所有法人が、省令に規定する人的関係、資本関係その他の関係において密接な関係を有する場合は規制を受けない。この点、マスターレッシーがスポンサーのグループ会社の場合、物件所有法人にスポンサーが出資し、また役職員等を派遣していると、人的関係・資本関係が認められる可能性がある。もっとも、物件所有法人が信託受託者やREITの場合、人的関係・資本関係はないか相当限定的であろうし、GKやTMKの場合でも倒産隔離の要請からスポンサーの資本関係・人的関係から切り離されていることが多いだろう。その上で、スポンサーとのさまざまな有形・無形の関係があることをふまえて「密接な関係」が認められるか、省令および(場合によっては)ガイドラインの内容に注視が必要である。
 なお、マスターレッシーがPM業者を兼ねて、物件所有法人との間でマスターリース契約とPM契約を同時に締結する場合がある(一体にしてMLPMとして契約することも多い)。この場合、マスターレッシー兼PM業者には本法のマスターレッシーに関する規制と賃貸住宅管理業者の規制の両者が適用されるものと考えられる。
一方で、前述のとおり、マスターレッシーが形式的にはマスターリース契約のみ締結しているものの、実態としては賃借した物件の管理業務も行う場合があり得る。この場合、賃貸住宅管理業の規制が及ぶか否かは明らかではないように思われる。

(イ)契約締結前書面

 本法の適用を受ける賃貸住宅管理業者および特定転貸事業者は、契約締結前にそれぞれ委託者および賃貸人に書面を交付する義務を負う。もっとも、それぞれ管理業務または特定賃貸借契約に関する専門的知識および経験を有すると認められる者として省令で定める者に対しては契約締結前書面の交付は不要である。
 この点、不動産私募ファンド・REITが保有する賃貸住宅について、これらの契約を締結する相手方となる委託者および賃貸人は、物件保有法人か、(マスターレッシーから賃貸住宅管理業者に管理業務を委託する場合には)マスターレッシーになることが想定される。そのうち、たとえば、信託受託者、TMKおよびREITはいずれも金融規制の特別法によって規制され、金融庁の監督下にある法人であり、専門的知識および経験を有するとも言える。そのため、これらの者が「専門的知識および経験を有すると認められる者」として省令で定められれば、不動産私募ファンド・REITが保有する賃貸住宅については、多くの場合契約締結前書面の交付は不要となり得る。省令および(場合によっては)ガイドラインの内容に注視が必要である。
(完)
注なお、PM業務以外にBM業務をBM業者に委託している場合は、業務の内容によってはBM業者も登録賃貸住宅管理業者でなければならない場合もあろう。

2020/10/14 不動産経済FAX-LINE

コメントをどうぞ
最新情報はTwitterにて!

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめ記事