安定感に投資が向かう学生住居 ―市場規模拡大へ新たなビジネスモデル必要(下)
不動産経済ファンドレビュー


 約5年前、新たな投資アセットとして投資家から注目された学生住居(学生寮、学生マンションを含む)。その後、大きく市場規模が拡大した結果は見られないものの、安定的な運営実績から、コロナ禍で底堅さを示したレジとの利回り差は縮まっている。土地用途の1つとして、少子化に伴い発生した需要を取り込もうとデベロッパーの参入は続く。一方、限られた学生数を対象としたモデルには限界もある。足元の学生住宅市場と今後の展望を追った。

安定感に投資が向かう学生住居 ―市場規模拡大へ新たなビジネスモデル必要(上)より続く

だが、機関投資家から巨額の資金が集まる市場かと言えば、「盛り上がっているとは言えない」(野津彰シービーアールイーアセットマネジメント部長)。2019年3月期には、みずほ銀行が丸紅や東京建物と共同で100億円規模の学生住居開発型ファンドの組成を目指していた。だが、何らかの理由により組成に至らなかった。米国や欧州では特化型リートが存在するなどアセットの地位が確立されており、2017年頃は日本でも新たなアセットとして市場規模拡大が期待された。しかし、前出の野津氏によれば、「運営会社との契約形式から賃料の成長が難しいことに加え、既存の学生住居はキャップレートがすでに低く、さらに一段圧縮をして売却価格を上げるというシナリオも描きづらい」ため、海外投資家が狙う成長性は見通しにくい。また、日本は土地が狭く、大学と一般の住居が同一地域内に存する。そこでは学生需要を見越して価格を抑えた賃貸レジが供給され、コンビニなど小売店が徒歩圏内にあることも多く、留学生であっても食事に困らない。こうした背景の違いから、日本では学生住居アセットに多くの資金が集まることは予測出来ず、機関投資家の資金を吸収する市場規模に達するのは今後も厳しいと見られる。

大手デべ、インフラ事業者など相次ぐ新規参入

需要拡大と産学連携で市場拡大なるか

 他方、伊藤忠都市開発、東急不動産など2016年~2017年に参入した先行デベロッパーに加え、日鉄興和不動産、穴吹工務店が2021年に参入を発表した。さらに、東京ガスや東急などインフラ系事業者も2021年以降の開発物件を公表している。ティーマックスによれば、2022年に竣工する学生住居は125棟・9500戸と増加傾向で、「収益性から100戸以上の大規模学生住居が多く、その傾向は地方にも広がっている」(原田毅ティーマックス代表取締役)。デベが供給する学生住居は、食事付の学生寮タイプと、学生に入居者を限定するのみで共有部の無い学生マンションに大別出来る。前者の利用料は、賃料・共益費が周辺相場より3割ほど高く、食費を含めると10万円を超えるのに対し、後者は周辺相場より賃料を抑えた4万円台~5万円台などもあり、両者が市場を奪い合うことはない。東急不動産住宅事業ユニットの内藤秀人統括部長によると前者の学生寮タイプで近年新規参入が増加している。

各社が前者の需要増を見込む理由は、「少子化で1人の子どもに対して負担可能な費用が増加している。万全のセキュリティに加え、栄養バランスのとれた食事の提供などが親の安心につながる」(前出の内藤氏)ことが大きい。さらに、コロナ禍でオンライン授業が普及するなか、同居する学生同士の交流を創出する仕掛けを施した物件も増加した。こうした学生寮には主に一定費用負担が可能な日本人学生が多く入居する。開発に際して学生寮は、建築基準法上、寄宿舎用途が適用される。そのため、居室内にキッチン・洗面・浴室の3点全てを揃えられず、多くは1室15㎡程度と一般的な1Rより若干狭い。また、駐車場の附置義務が緩和されるため、土地を有効に活用出来ることも重なり、1Rレジより多くの戸数を確保出来る。立地に関しては、一般的なレジが駅からの距離が重要である一方、学生住居は大学からの距離が始点となり、デベロッパーにとっては土地の用途に対して選択肢の1つとなり得る。

現在、18歳人口は減少するものの、女性進学率の増加から進学者数は高く推移している。文部科学省は高等教育の国際通用性を高めようと、スーパーグローバル大学創成支援事業を展開し、コロナ禍が収束すれば留学生の増加も見込める。専業運営会社の1社である学生情報センターは、「留学生用だけでなく、国際競争力の向上には研究者の確保が必須で、住まいの整備が求められている」と見て、学生が集中する東京・大阪・神奈川を始めとする11都府県では十分に新規供給余地があると予測する。一方で、留学生、研究者などを需要に捉え、現状のビジネスモデルを拡大していかなければ、限られた学生数の前に需給が緩む可能性も否定出来ない。東急不動産が開発し2月に竣工した「キャンパスヴィレッジ大阪近大前」では、大学のゼミと協働し、学生目線のアイデアを取り入れている。こうした産学連携の進展、および需要層の広がりによって、新たな学生(関連)住居が体現される可能性はある。新しいビジネスモデルを供給出来れば、投資市場拡大の契機も見えてくる。

2022/3/25 不動産経済ファンドレビュー

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