やりすぎは禁物、常識の範囲内で判断を  マンション相続節税判決で専門家に聞く

(提供 日刊不動産経済通信相続税対策のマンション節税に関して、路線価評価ではなく財産評価基本通達第1章総則6項に基づく国税庁判断を認めた最高裁判決について、その影響を小谷野税理士法人の竹内英雄・税理士に聞いた。竹内氏は不動産流通推進センターの教育研修プログラムの講師を務めるなど、税務と不動産取引に詳しい。

 ―今回の事例について。

 竹内氏 一言で言えば、“やりすぎ”だった。札幌市在住の被相続人は孫を養子縁組し、その翌年に都内と川崎の1棟マンションを2物件購入した。被相続人が90~91歳の時だ。取得金額は13億8700万円で自己資金が3億3200万円、借入が10億5500万円だった。3年後に相続が発生、路線価評価額よりも借入額のほうが多額だとして、ゼロで申告した。しかも相続税申告期限前に、相続人が川崎の物件を売却している。

 ―国税庁の判断は。

 竹内氏 これを認めず、鑑定評価額に基づいて追徴課税した。それを不服として納税者は国税庁を訴えたわけだが、地裁、高裁で敗訴している。最高裁が判決の前月に口頭弁論を行ったため、これまでの判断を覆すのではないか、あるいは総則6項について何らかの基準を示すのではないかとの期待を呼んだが、いざ蓋を開けてみたら、判断は下級審と変わらなかった。

 ―国税の今後のスタンスについて。

 竹内氏 総則6項に関する訴えは結構起きていて、当局も問題意識を持って内部でいろいろな検討は行っている。しかし、それについて一定の基準、例えば被相続人の年齢は何歳までならよいとか、物件購入に際しての借入の割合は何割までならよいなどの具体的な線引きを示すことは考えられない。基準を示せば、それに抵触しないギリギリの行為が発生する。そのたびにまた基準を厳しくするというようなイタチごっこに陥るおそれがある。国税としても手の内を明かさない方が引き締め効果を得られる。

 ―不動産投資を活用した相続税対策の今後については。

 竹内氏 当局としては最高裁のお墨付きを得たので、6項適用の姿勢を強めることが予想される。適用基準の明確化や財産評価基本通達の改正は一歩後退だ。過度な不動産投資による相続税対策には一定の歯止めがかかるだろう。

 ―金融機関や不動産業者はどのように対応していけばよいか。

 竹内氏 とくに金融機関にとっては、今回のような極端な事例はレピュテーションリスクにさらされる。不動産投資を活用した相続税対策への融資はハードルが高くなるだろう。とはいえ、不動産融資は金融機関にとって引き続きロットが稼げる案件なので、‟やりすぎ”ではない事例については、従来通りにおカネを出すだろう。当局が6項の基準を示すことは考えられないので、常識の範囲内での判断が求められる。取引に携わる不動産業者にとっても、まさにその常識に沿ったスタンスが求められる。

 ―マーケットに与える影響をどう見るか。

 竹内氏 確かに極端な相続税対策用の不動産投資は排除されていくだろうが、それはごく一部だ。マーケットはそのほかのいろいろな因子で構成されている。この判決によって不動産投資市場が先細っていくということは考えられないだろう。

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