――評価制度をどう普及させていくか。
岡本氏 制度始動後、まずは築浅で管理状態の良い高評価のマンションの登録が進むだろう。これらのマンションは、概して管理組合の管理に対する意識が高く、自らのマンションの居住価値の高さを評価制度で点数化し、登録公表することで市場価値、資産価値に反映させていくことが予想される。しかし、足下のマンションの売買市場の状況やマンションストックの現状を考えた場合に、両制度の対象が築浅優良物件のみに止まっていることは、政策的にも適切でないだけでなく、業界にとっても好ましいことではない。築30年超であっても既に新耐震基準の適用を受けているが現状では高評価が難しいマンションは、そのままの状態で登録することをためらい、登録が進まないことも考えられ、こうしたマンションに対する手当が最も重要だ。
協会としては、築30年以上のマンションに評価制度が普及していくことが大変重要であると考えている。築30年のマンションは高経年ともいえるが新耐震のマンションでもあるので、そうしたマンションに高いランクの評価がつくことにより市場で評価されれば、高経年マンションの流通促進やマンションの長寿命化にも寄与する。築30年前後は3回目の大規模修繕工事が視野に入るタイミングだが、中には2回目の大規模修繕工事が実施できていないマンションや、3回目のタイミングに合わせ給排水管の共用部と専有部の一体更新を検討するマンションなど、マンションごとに異なる課題が出てくるだろう。その対応に評価制度を絡め、この課題を解決すれば評価制度でより高いランクの評価を得られると説明したり、認定制度の認定を得られることなどを提案していきたい。マンションによっては高い評価を得るまでには準備期間も必要で、4、5年かかるケースもあるだろうが、評価を得るための取り組みをする中で管理の水準を引き上げを期待したい。制度の普及も大事だが、それ自体を目的にせず、マンションを適正に管理・修繕するようにし価値を上げることこそが重要になる。
今年度からは協会内に「適正評価運営委員会」を設置し、評価制度の普及や浸透に力を入れる。制度を活用しようとする中でマンションごとにさまざまな課題が出てくると思われるので、そのフォローアップをしながら評価制度を普及させたい。特に、高経年で長期修繕計画がない、あるいは不十分なマンションに対し、2回目と3回目の大規模修繕工事で行う内容などについて段階的に底上げしていくロードマップを示していく。このことはそれを管理組合への提案だけでなく政策要望の材料にし、国や住宅金融支援機構、民間金融機関にも支援を働き掛けたい。
将来的には、評価制度でハード面だけでなくソフト面の評価にも着目されるようにしたい。マンションは居住価値が資産価値につながるが、居住価値の評価は居住者により千差万別で共通の指標は当てはまりにくい。それでも何らかの評点の付け方はあるのではないか。例えば、認知症の居住者の対応をする場合、協会ではその対応のためのマニュアルを検討しており、そのマニュアルの活用状況を評価の指標に追加するようなことも考えられる。
マンション管理業を組合マネジメントビジネスに
社会問題化するマンション管理に対応
――評価制度を運用する中で管理会社の果たす役割はどう変わるか。
岡本氏 私は不動産会社でビルのプロパティマネジメントにも携わり、ビルの資産価値を高める仕事もしてきたが、マンション管理業はマンションの資産価値だけでなく居住価値も向上させる仕事だ。この「価値を上げる」ことをビジネスとして確立していくことがマンション管理業においてこれから大変大事だと思う。そのことをマネジメントしビジネスとしていくべきだ。価値を生むにはマーケティングやイノベーションが重要だが、それにより生み出す価値も利潤も変わる。こうした感覚が、評価制度を運用する中でしっかり根付き育っていくことを期待している。不動産市場でマンション管理の仕事が「市場価値を生むこと」とはっきり評価され始めたときに、マンション管理業はビジネスとして自立していけるのではないか。
管理組合のマネジメントは一般の企業経営より難しいともいえる。合意形成が難しい上、一定数以上の合意がないと決められない。マンション管理は管理組合が主体的に取り組むことが基本だが、なかなか難しい面もあり、管理会社が良い形でサポートしていくことが重要だ。今後、管理会社は管理組合の状況に合わせたマネジメントサポートを提供する新たなビジネスモデルを創り上げていくことが重要なのではないかと思う。
評価制度でランク分けされてくると、同じデベロッパーのマンションブランドの中でもマンションによってランクが異なるケースが出てくるだろう。同じ物差しで評価した結果で違いが見えれば、管理会社としても管理組合に対して自分たちのマンションの課題がどこか説明しやすくなるし、改善に向けた提案もできる。そうした尺度があることは管理会社の成長につながるし、ビジネスとして確立するための道筋にもなる。
マンション管理は社会問題であると常々申し上げているが、高経年のマンションストックが増加し、区分所有者の高齢化も進む中で、適切に管理されずにいると日本の住生活基盤が崩れる。こうした認識はようやく広まってきて、それが今回の法改正にもつながったが、それでもまだまだ浸透していない。この問題は2030年以降にも明確に顕在化してくると思われる。現状ではまだ目に見えにくいけれども今のうちに対応しなければ大変なことになる。マンションが適正に管理され価値を生み出せるよう、管理会社は今後マネジメントレベルを大きく上げていかなくてはならないと思う。
2022/4/5 月刊マンションタイムズ