約5年前、新たな投資アセットとして投資家から注目された学生住居(学生寮、学生マンションを含む)。その後、大きく市場規模が拡大した結果は見られないものの、安定的な運営実績から、コロナ禍で底堅さを示したレジとの利回り差は縮まっている。土地用途の1つとして、少子化に伴い発生した需要を取り込もうとデベロッパーの参入は続く。一方、限られた学生数を対象としたモデルには限界もある。足元の学生住宅市場と今後の展望を追った。
ポートフォリオを底支えする安定アセット
特化型ファンド設立には厳しい市場規模感
「特殊なアセットという位置づけから、レジを取得する投資家が向かうアセットの1つへと変わってきている」(河内大輔東急リート・マネジメントコンフォリア運用本部運用戦略部長)。学生住居への投資モデルでは、オペレーターに10年以上等の長期マスターリース契約で賃借を行い、固定賃料を収受する。不動産を保有するオーナーは、運営と所有を切り分けた形で長期にわたり安定的な収入が確保出来る。また、子どもの教育に結びついており、景気の変動には耐性がある。加えて、従前は利回りにおいてレジより50bp程度高いNOI利回りが見込めた。だが、コロナ禍で底堅さを示したレジに投資が向かいキャップレートが下がるなか、学生住居もその安定性を評価され、エリアや物件によっては3%台後半になるなど、レジとの差が縮まっている。
プレミアムが減少するものの、長期安定性を評価する投資家は、一定数をポートフォリオに組み入れたい意向も見える。Jリートでは、2018年に9リートが保有していたが、不動産評価を行うティーマックスによれば、2022年4月末時点で14法人が80物件を保有する見込み。例えば、コンフォリア・レジデンシャル投資法人は3月25日取得予定物件を含め5物件・74億円を運用し、ポートフォリオの2.7%を占める。同投資法人の資産運用を担当する前出の河内氏は、「AUMが3000億円水準に達した時には(2月1日時点で約2630億円)、全体の10%、300億円ぐらいを運営型アセットにしたい」というイメージを描く。同社の運営型には、シニア住宅・サービスアパートメントも含まれるが、資産規模拡大とともに学生住居をコンスタントに取得していく姿勢だ。学生住居は、固定賃料のマスターリース契約のためアップサイドは狙えず、リートやファンドがメインの投資先とすることは難しいが、ポートフォリオの底支えをするアセットとして評価は高まっている。
国内で安定アセットとしての地位が固まるにつれ、海外投資家の目も向かう。3月9日には、シンガポールのリートであるアスコット・レジデンス・トラストが、日本で初となる学生住居を賃貸レジとともに取得したと発表した。日本では、学生住居の大手専業運用会社が4社あり、実にJリート保有物件の91%を占める。投資家は物件選考において、大学からの距離と利便性、稼働率、運営会社のクレジットという3点を重視するが、専業4社は立地や需要に目利き力を持ち、大学の学生課とのコネクションや各種営業戦略などリーシング力も強い。こうした大手運営会社の確かな実績は、運用の安定性を高め、投資家の安心感にもつながっている。
安定感に投資が向かう学生住居 ―市場規模拡大へ新たなビジネスモデル必要(下)へ続く
2022/3/25 不動産経済ファンドレビュー