国土交通省は3月22日、2022年1月1日時点の公示地価(調査地点=2万6000地点)を発表した。全国の地価は全用途平均で前年比0.6%の上昇となった。全用途平均は昨年の下落から上昇に転じた(前年は0.5%下落)。住宅地は0.5%上昇、商業地は0.4%上昇し、住宅地は前年の0.4%下落、商業地は前年の0.8%下落からいずれもプラスに転じた。
全国の地価動向は、新型コロナウィルスの影響などにより下落した昨年と比較すると、経済活動の持ち直しの動きが地価にプラスの影響を与えた。サプライチェーンが回復軌道に戻りつつあることから、製造業が景気に与える影響が強い名古屋圏では住宅地が1.0%上昇(前年は1.0%下落)、商業地は1.7%上昇(前年は1.7%下落)と上昇に転じた。
3大都市圏では全用途平均で0.7%上昇(前年は0.7%下落)、住宅地が0.5%上昇(0.6%下落)、商業地が0.7%上昇(1.3%下落)。住宅地では都市中心部の希少性の高いエリアや、交通アクセスに優れた郊外立地などで上昇基調が継続している。一方でバス便エリアなど地価が相対的に低いエリアでも上昇した場所がある。
商業地では店舗需要やホテル需要が減った一方でマンション用地としての需要が活発。ただしコロナ前までインバウンド需要で活況を呈していた大阪のなんばや東京・銀座などの繁華街は、下落率が縮小しているものの落ち込みは継続している。テレワークの影響が現れ始めた都心オフィス立地については、空室率の上昇により地価が下落している地域がある。一方で巣ごもり需要による通販ビジネスが好調であることを背景に、物流施設用地の引き合いが強く、全国の工業地は上昇が続いている。
この1年の地価動向を基準地価(21年7月1日時点)との共通地点における半年ごとの地価変動率で見ると、前半(21年1月1日~7月1日)は経済活動の持ち直しの動きが広がって取引が回復、住宅地と商業地は大阪圏および地方圏その他の商業地を除いて若干の上昇または横ばいとなっている。後半(21年7月1日~22年1月1日)は経済活動の持ち直しの動きが継続、住宅地・商業地共に全ての圏域において地価は上昇または横ばいとなっている。
高額化した札幌から郊外へー住宅地の上昇率トップに北海道・北広島、石狩、江別
人口増加が続く地方の中核4都市(札幌・仙台・広島・福岡)の住宅地の地価は5.8%上昇(2.7%上昇)、商業地は5.7%上昇(3.1%上昇)とさらに上昇した。中心部の商業地では再開発事業の進捗による繁華性の向上に加え、タワーマンションなどマンション用地としての需要が拡大。都心部が価格上昇し周辺部へ住宅需要が拡がり、周辺部の地価も上昇した。その典型が札幌市の隣接自治体だ。全国の住宅地の地価変動率のトップ10を札幌市の郊外となる北広島、石狩、江別で占めた。地価上昇率で全国トップとなった北広島市共栄町1−10−3の地点は、1年間で26%も上昇した。
北広島は札幌都心へのアクセスに優れており、大規模な公園などで豊かな自然があるほか、23年3月にプロ野球・日本ハムファイターズの新本拠地となる「ボールパーク」が開業予定。共栄町1−10−3の地点は新球場のアクセスに便利なJRの新駅(予定)にほど近い。北海道では北広島以外に石狩の2地点が2割前後の上昇、江別の地点も2割強の上昇となった。開発による新たなまちづくりへの期待に加え、札幌市内の地価上昇を嫌気して郊外に流れ、その需要を受け止める形で住宅開発が進捗している。
商業地地価上昇率上位に福岡・博多、天神
全国の商業地の上昇率トップとなったのは、北広島市の「北海道銀行北広島支店」で19.6%の上昇。2位も北広島の別の地点で4位は恵庭市の地点。ただしいずれも公示価格が平米あたり3万円台から6万円台と低価格であるため、変動率が大きく出やすい。トップ10のその他の地点は全て福岡市内で、3位に博多区祇園町の「博多祇園プラザビル」(平米当たり210万円、18%上昇)が入った。5位〜10位の地点は博多駅南の「タイガー魔法瓶福岡支店」(16.2%上昇)、中央区渡辺通の「DAIREI5ビル」(15.6%上昇)、中央区清川の「ウィンステージ天神南」(15.2%上昇)、天神4丁目の「応研株式会社」(15.1%上昇)など。いずれも天神や博多の中心部で進めれている再開発プロジェクト「天神ビッグバン」、「博多コネクティッド」とはやや外れた立地で一等地とは言い難い。福岡中心部のオフィス空室の少なさや賃料の高止まり傾向が続いていることから、比較的割安となるやや周辺へ需要が流れ、こうした場所が地価上昇の恩恵を受けているものと考えられる。
広島・八丁堀は人流回復へ、仙台は東北随一の繁華街・国分町は厳しい
このほか仙台市では住宅地が4.4%上昇(2.0%上昇)、商業地では4.2%上昇(2.8%上昇)となった。住宅地については仙台駅周辺だけでなく郊外の住宅需要が堅調。商業地では仙台駅周辺のほか、東北大農学部跡地周辺で需要が高まっている。ただし繁華街である国分町は店舗・ホテル需要の減退から地価は下落している。
広島市では住宅地が1.4%上昇(0.4%上昇)、商業地では2.6%上昇(0.4%下落)。住宅地では中心部へのアクセスに優れた平坦地や郊外の大型ショッピングセンターの周辺などで地価が上昇。商業地ではJR広島駅北口開発および駅南口の再開発期待から地価が上昇。繁華街である八丁堀・紙屋町では人通りが回復しつつあり、将来の売上期待感から店舗・ホテル需要が持ち直しつつある。