コロナの影響で、分譲マンションは一時的に販売ストップに追い込まれた。価格のさらなる上昇で、首都圏マンション市場が厳しさを増していく中、コロナがさらに追い打ちをかけた。ただ、こうした状況下でも、販売ペースを落とさずに契約を順調に積み上げている物件がある。販売好調の要因は何なのか。具体的に物件を見ながら検証する。
コロナ禍でも販売好調を維持する ―契約進む分譲マンションの共通項(上)より続く
横浜・戸塚区の「ルネ横浜戸塚」(430戸)は大型物件。駅から徒歩12分だが、商業施設が近く大型であるゆえのスケールメリットを生かして共用施設を充実させることで、顧客を掴んだ。昨年12月から販売を開始し、4月上旬までで約4割が進捗した。敷地にイオンスタイルが隣接し、利便性の高さで駅遠立地をカバーしている。分譲価格は70㎡台で4000万円台後半であり、駅近が5000万円台後半~6000万円台のため、割安感を出すことが出来ている。
同物件は、共働き世帯をターゲットに据え、共用部にワーキングラウンジを設置し、スマホで操作できる個別宅配ボックスなどの付加価値装備が狙い通りに顧客の高評価につながった。
戸塚駅での近年の供給を見ると、比較的駅近立地物件が多く、分譲単価も上昇している。駅徒歩5分前後までの物件は、坪単価260万~280万円、5000万円台後半~6000万円と、かなり高単価・高グロスのマーケットとなっているが、等エリアの一般的な一次取得層が購入可能とする価格は4000万円台まで。同物件は駅遠物件だが、ターゲットの購入体力にきちんと合わせた価格設定とし、生活利便性、共用施設で差別化に成功した。
千葉・習志野の「バウス津田沼」(101戸)は、3月から販売を開始し、1カ月間で5割以上進捗した。同物件の好調要因は4つ。再開発でエリア人気が急上昇していること、2018年のタワー物件以来、供給がゼロであったこと、徒歩7分の立地評価、専有面積70㎡・5000万円台中盤である価格の適正感が受け入れられた。顧客の希望予算は4000万円台後半までで6割だったが、立地評価と需給バランスの良さ、仕様設備のグレードが評価され買い上がりも見られた。
津田沼駅は大型土地区画整理事業による駅前再開発で、商業施設も充実、エリア評価が大幅に上昇したほか、総武線始発駅でもあり人気が高い。ただ、2014年以降で徒歩10分以上の駅遠立地物件の供給は2物件しかなく、基本は駅近物件中心の市場だ。2年おき程度に大型物件の供給が行われているが、売れ行きは好調、エリアの集客力は高い。同物件も津田沼人気に後押しされ、地元周辺中心の顧客に対して訴求することに成功したといえそうだ。
好調要因は設定するターゲットの明確化 狭いニーズに合わせた造り込みが成否の鍵
現在のコロナ禍の激しい状況の中でも販売好調な物件は、本当の意味でマーケットが望んでいる物件と言うことができる。好調要因のポイントを見れば、良好な需給バランスや駅近立地、買い物便とグロスのマッチングという非常に基本的な好調要因だった。路線の都心へのアクセスが良好で、都心まで概ね30分台のアクセス可能、エリア評価が高い、商品グレード、プラン評価のウエイトが高いことも挙げられる。
しかし、今回の物件すべてに共通していることは、商品が設定するターゲットが非常に明確であること。つまり①エリアは地元狭域か中広域まで広げるのか②一次取得層か、住み替え層まで含めるのか③エリアのボリュームゾーンを狙っているのか、アッパーゾーンを狙っているのか――。それに加えて、ターゲットとする顧客の年齢、家族数、年収・自己資金、予算、ライフスタイル等を研究し、ニーズに合わせて面積設定や間取り、仕様設備グレード、共用部の付加価値、ソフトサービスなど商品をしっかりと造り込んでいる。
もちろん、これまでもすべてのデベロッパーが当然手掛けてきたことだが、今回の物件は、これらの作業を経た商品設定が顧客のニーズにはまったということだ。今年後半の供給量も前年比7~8割程度、年間供給戸数は2万戸前後にとどまる可能性は高い。消費動向が不透明な中、いかにして狭いニーズに合わせた商品を造り込むことが出来るかが事業の成否を握ることになりそうだ。
2020/9/15 不動産経済ファンドレビュー