S&Pによれば、2021年に引続きコロナ禍の余波が大手銀行、地方銀行ともに信用力見通しに大きな影響を持つことは変わらない。だが、収益性が回復基調にある大手行と、取引先の多くに業況不透明感が残る地銀とでは、対照的な状況が見える。特に、大手行に比べて地銀では与信関係費用の計上額が少なく、政府による金融支援策が離れていく2022年以降を不安視する一因となっている。
また、米国の利上げを中心に進むインフレリスクは、通常であれば市場金利の上昇とともに銀行業にはプラスに働く。だが、コロナ禍により世界的に事業者の負債比率が上昇している足元では、賃金コストを含む生産コスト上昇といった悪影響が収入増加を上回ることで、債務償還能力が低下する可能性を懸念する。
コロナ禍の影響が長期化するなか、アフターコロナを見通せるか否かは、大手行(3メガバンク)と地銀で明暗を分けているようだ。S&Pによれば、2021年中間決算では大手行、地銀両者でコア業務純益、純利益ともに大幅に増加した。これは、コロナ禍により企業が借入を増やしたために資金利益が増えたこと、および政策的な金融支援により与信関係費用が大幅に抑制されたことが要因で、基礎的な収益力の改善とは言えない。だが、アフターコロナを見据えた大企業を多く取引先にもつ大手行では、①国内部門の貸出し金利が改善基調、②高い与信関係費用をすでに計上し、今後についても相応に高い額を想定している、③大手企業を中心に余剰借入金の返済が始まり、貸出金残高は減少に転じたといった状況で回復基調と言える。一方の地銀では、①貸出し利ザヤの縮小が続き、②与信関係費用の計上は大手行に比較して少なく、③依然として貸出金残高は増加傾向にあるなど、苦境が鮮明になっている。
財務省が2021年10月に行った調査では、今後追加資金を必要とする企業は、大企業で12%、中小企業で31%と開きがあり、追加資金需要は三大都市圏と地方圏でも同様の差異が見られる。S&Pは、中小企業と地域に密着した経営を行ってきた地銀は、今後資産の質の悪化に対する耐久力が試されると見ている。
他方、米国を中心に進むインフレについては、コストプッシュ・インフレを懸念する。民間部門の負債比率はグローバルで高く、連れて自己資本比率が低下した場合は、損失吸収能力が下がる。そのため、各経済主体の収入減が大きなリスク要因として世界に波及する可能性がある。また、日本では低金利政策が続く見通しであることから、海外のインフレ率を金利に転嫁出来ない可能性も高く、邦銀固有のリスクとなりそうだ。そのほか海外市場のリスクとして、世界GDPの約17%を占める中国経済の動向は大きい。大手行では、ポートフォリオ分散を進めた事業戦略を敷いているが、米ドル等海外金利の変調を予測しながら、低コストで安定的に外貨調達を図れるかが高い信用力を維持するポイントとなる。加えて、成長余地を求めて投資を行うアジア新興国の一部、インドおよびインドネシア等で経済リスクは不透明感を高めており、注視する必要がある。
オミクロン株感染拡大による不透明感が残るなか、S&Pは不確定要因が大きい世界経済に銀行業は左右されると見る。邦銀各行は、コロナ禍の行く末を見定めたリスクヘッジを行いつつ、足元でコロナ禍から脱却しようとする企業を支える――鳥の目・虫の目・魚の目を持った舵取りが迫られていく。