不動産市場に新たなデータがもたらされる
個主体の世界が進む、不動産テックは3.0に
ロケーションテックやメタバースの活用と今後の方向性について、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠准主任研究員が解説した。
人流データは、コロナ禍で高い関心を集め、不動産市場においてもホテルや商業施設の稼働状況を占う指標として注目されている。これはオルタナティブデータ(AD)と呼ばれ、ITテクノロジーの進展により活用が進み、マクロ的な平均値では影響の実態を上手く掴めないコロナ禍で強い需要が発生した。ADは、速報性、および詳細で精度の高い分析(サブマーケット分析)が可能であることを特徴とする。今後、ADに基づいたインデックス作成など多方面での利活用が期待出来る。
われわれは人流データを活用し、人々の働き方の変化を見るため、“オフィス出社率指数”を作成した。人流データは、目的に合わせてエリアの策定、並びに期間や時間帯の設定をする必要がある。今回の指数では、オフィスエリアを限定するため、過去のオフィス取引データを使用して取引のあった場所をオフィスと同定、ピンポイントで人流データを取得した。このように他のデータと組み合わせることで、目的特性に応じた正確なデータを生成していく工夫が重要だ。こうした分析は、サブマーケット分析、さらに個別ビルの状況検討にも使用可能で、今後投資担当者らが運用に活かすことは十分考えられる。不動産市場に新たなデータがもたらされていくことにより、ADが企業戦略に身近なデータとなり、プレーヤーが自らツールを使い分析を行う未来が訪れる可能性もある。
現状を不動産テック2.0とすると、メタバースは3.0に位置付けられる。コロナ禍で在宅勤務を経験した人の多くは、ITツールによってコミュニケート出来ることを実感した一方、空間情報を共有出来ないもどかしさを感じた。これを乗り越える技術として、空間をインターネットにつなぐVR、ARなどメタバースの技術は今後重要視されていくだろう。こうした技術の進展は、産業構造を変化させるとともに、より個が中心となる世界を創り出す。不動産業界においても、企業主体から個主体へと変化していく中で、現状のサービスをどのように変化させていくのかというDXが今求められている。
テックが支える不動産戦略で企業価値向上へ
不動産管理はBIMと連携で大幅な効率化
BIMとクラウドを活用した不動産DXについて、プロパティデータバンクの板谷敏正社長が解説した。
われわれは主に既存ストックの利活用や生産性向上に、テクノロジーを使って寄与したいと考えている。企業が保有する不動産は、量の調整、利活用、資産入替えなど工夫を重ねている。オフィスビルでは、大手町や渋谷等で多くの再開発行われているため、30年~40年で建て替わるイメージだが、それらはほんの一部に過ぎない。建替わりが比較的早いと思われる都心3区でも現在ビルの寿命は約60年で、これは今後延びていく傾向にあり、長く大切に使われていく必要がある。
また、企業の不動産戦略は、多彩な選択肢が広がっている。重要なのは、ポートフォリオ(PF)で考えることで、企業全体の戦略やバランスシート(BS)の在り方で変わってくる。オフィスの保有・賃借、賃貸借事業展開まで多くの選択肢を支える機能には、証券化やファンドの存在がある。民間企業はBSを使いながら、または事業PFの中から、本業を補完するインフラとしても不動産を活用していくことが可能だ。コロナ禍で加速するワークプレイス戦略は、様々なITツールの進展が支えており、空間の改革も同時に行うDXとして展開されることがポイントになる。シェアリングやコワーキングなど、すでにサービスは全国で提供されており、企業は戦略に応じて選択していく。
こうした状況のなか、われわれは不動産管理支援クラウドサービスを提供しており、約15万棟の建物で使用されている。土地の取得から、企業のCRE戦略、投資用不動産のPM・AMの契約管理など多機能で、すべてが会計システムと連携する。それらはクラウドで完結するため、必要な人々や地域で共有可能なシステムだ。足元で注力するのはBIMとの連携で、これにより3次元でテナント管理、設備管理などを視認できる。2次元の図面を探索する必要はなく、大幅な効率化と生産性改革に寄与出来るのではと考える。さらに、データが蓄積されれば分析も可能で、設備の予防保全の最適化等を図ることが出来る。企業不動産戦略と企業経営は一体と言え、テックの活用によってPFの最適化が図られ、企業価値向上につながっていくだろう。
2022/2/15 不動産経済ファンドレビュー