新時代の管理運営を探る53  20年近く前に 地球温暖化対策に取り組んだ マンションデベロッパーの康和地所(上) 飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)
マンションタイムズ


世界各地で頻発する洪水や熱波、森林火災等々。地球温暖化に伴う気候変動は「待ったなしの危機的な状況」にある―。11月12日から15日までイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)を前に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、温暖化対策の加速を強く求める文書を発表した。日本政府も昨年、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言。30年までのCO²排出量削減目標を、従来の13年度比26%減から46%減とすることを決めた。分譲マンションデベロッパー各社も、政府の方針に対応してZEHマンション(エネルギー・ゼロ・住宅)供給に力を入れ始めている。こうした中で想起したいのは、まだ多くの人が温暖化対策の重要性に気づかなかった今世紀の初め、行政の支援を受けずに外断熱マンションの供給に取り組んだデベロッパーがあったことだ。



 外断熱マンションの供給に取り組んだデベロッパーは康和地所。ブランド名はリリーベル。同社の設立は1999年。京都議定書が採択されたCOP3が開催された2年後。専門家の間では地球温暖化対策が重視されていたが、一般の関心はまだ低い時代である。社長の夏目康広氏は、当時最大のマンションデベロッパーで営業推進部長や取締役を務めた。当時のマンション業界は、各社とも建物の基本性能よりも売りやすさを重視し、設備機器の目新しさやインテリアの豪華さを競い合う事業モデルが中心だった。築後40年程度で老朽化とみなされ建替えられることも珍しくなく、夏目氏は内心忸怩たるものがあったという。
 新たに設立された康和地所は「いいものをつくって、きちんと手入れして、長く大切に使う」という新しいマンションの事業モデを模索した。このなかで日本では寒冷地を除きもっぱら内断熱工法の建物であるのに対し、欧米では外断熱工法が常識であることを知った。社員をドイツ等のヨーロッパ諸国とアメリカに派遣、現地の実情を視察した。外断熱は内断熱に比べ建設コストが20%程度高くなるが、エネルギー効率が良く冷暖房の使用を大幅に削減できるだけでなく、建物の躯体が劣化しにくくマンションが長持ちすることも分かった。
 2002年、首都圏で初めての外断熱マンションとして「リリーベル両国北斎通りサーモス」(以下「L北斎通り」)を発売した。外断熱マンションの販売価格は内断熱マンションに比べ約10%高くなる。康和地所が行政による支援がない中で、営業戦略上有利とは言えない外断熱マンションの供給に踏み切ったのは、結露やカビの発生はマンション生活者が換気を怠ることが原因だとするような従来型の事業モデルを変えたいという想いがあった。「L北斎通り」の販売パンフレットも、住戸のインテリアや共用施設の豪華さを強調する従来のタイプとは違う。断熱材や高断熱の樹脂サッシ、複層ペアガラス等で建物を包む外断熱マンションの仕組み、高断熱・省エネルギーの健康への効果、建物の耐久性等の説明が大半を占めていた。外断熱マンションを初めて耳にするユーザーが多いなかで、康和地所は27棟、約1,000戸の外断熱マンションを販売した。しかし、2007年のリーマンショックに端を発した世界的な経済危機の影響で資金繰りが急速に悪化、08年10月に民事再生法の適用を申請したが、再生計画が債権者の同意を得ることができないため破産に追い込まれた。
 外断熱マンション供給等の同社の真摯な姿勢を知る人たちからは、破綻を惜しむ声が多く聞かれた。外断熱推進会議の当時の理事長竹川忠芳氏(弁護士)は、「敢然と外断熱マンションの建設・販売を断行してきた同社の、その果たした歴史的役割、そして、残した足跡は大いに賞賛に値する」と語っている。RBAタイムズの牧田司記者も民事再生法申請に「『なぜ、康和が』という思いだといい『康和地所のマンションは極めてレベルの高いマンションだと今でも思っている』」と書いている。

 2021/12/5 月刊マンションタイムズ

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