デルタ株も影響 オフィスへの戻り回復せず
アメリカ10大オフィス市場で占有率の低迷が続いている。まず、その実態をグラフで確認しておこう。
なお、このグラフに関してはご注意いただきたいことが二つある。一つ目は、これは占有率自体の数値ではなく、コロナ前(2020年3月初め)の占有率を100%として、それに対するパーセンテージで表示したグラフだということだ。そして、都市圏ごとにコロナ前の水準はかなり違っていた。
ニューヨークやサンフランシスコのようにほぼ一貫して90%台後半を維持してきたマーケットもあれば、ヒューストンやダラスのようにどんなに景気が良くても、せいぜい80%台後半にとどまるマーケットもある。当然のことながら、同じように実質占有率が約30%に低下したとしても、それぞれの都市圏でピーク比の数値はかなり違ってくる。
二つ目は、もっと重要だ。これは普通の入居率を調べた数字ではない。実際にオフィスに通って仕事をしている人たちの人数が満杯状態に比べてどの程度下がっているかを、「占有率」として調べた数字だ。したがって、入居率よりはるかに低くなっている。
事業継続中の企業は、実際にオフィスで仕事をしている従業員の人数が激減したからといって、急に賃料の値切り交渉をしたり、契約面積を縮小したりしないだろう。突然そんなことをすれば、「経営危機か」などと痛くない腹を探られる。だから、現在オフィス市況がいかに深刻な危機に瀕しているかは、通常の入居率を見ていただけではわからない。
たとえば、アメリカのオフィス仲介大手、ジョーンズ・ラング・ラサールによれば、今年第2四半期(4~6月)で、ニューヨークの入居率は89.8%、サンフランシスコの入居率は88.2%となっていた。一見したところ、もう完全回復間近と思える数字だ。
だが、占有率で見れば、実際にオフィスに通ってくる勤労者たちはいまだにコロナ直前に比べてわずか30%台にとどまっているわけだ。いったいどうやって、毎週特定のオフィスビルに入居している企業の勤労者たちがオフィスに出てきているか、いないかを調べるのだろうと、ご不審の向きもあるかもしれない。
原資料として名前が出ているキャッスル・システムズというのは、オフィス仲介業者ではない。オフィスの警備保障・出入管理で全米最大級の企業だ。そして、このグラフが示す占有率とは、この会社が自社で管理しているオフィスビル1棟1棟から、入居している企業の従業員が毎日何人入館証を使ったかを集計して出している数字なのだ。 この占有率ベースで見ると、オフィス市場の先行きは相当暗そうだ。今年の春先には一時楽観的なムードが漂っていて、占有率も35%程度まで回復していた。ところが、もともとのCOVID-19よりやや若年層での感染率が高いデルタという亜種が出現してから、また占有率が下がり、直近ではかろうじて30%台を維持するにとどまっている。大丈夫か、アメリカのオフィス市場 経済アナリスト・文明評論家 増田悦佐(下)へ続く
不動産経済Focus &Research 2021/9/8