過熱した市場から 効率化のステージへ ―全国に商機見出す物流施設市場(上)
不動産経済ファンドレビュー


 各アセットがコロナ禍で様々な負の影響を被るなか、物流施設市場は投資対象として力強い魅力を発揮してきた。世界的にも物流施設市場は活況なため、比較すると日本の同市場は依然として投資妙味を持ちグローバルな資金が流入する。一方で、新興のデベロッパーが多く参入し、キャップレートは3%台に縮まる物件も見られるなど不安要素を指摘する声も聞かれる。足元の市場環境を整理し、今後の施設選好基準と開発に求められる肝所 を追った。


空室率は上昇に転じ、進む優勝劣敗
選好のポイントは“集約効率と労働効率”

 「ミスマッチが顕在化する」(久保田精一サプライチェーン・ロジスティクス研究所 代表)、「二極化が始まってくる」(熊谷真理クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(C&W) ヘッド・オブ・リサーチ&コンサルティング)、「優勝劣敗が鮮明となる」(山田御酒プロロジス 社長)。先進的物流倉庫への更新需要、そしてコロナ禍によるEC市場の加速的伸長にけん引された首都圏の物流施設市場は、新たな局面を迎えようとしている。CBREによれば大型マルチテナント型物流施設(以下、LMT)の首都圏における空室率は、2020年は1%を切る水準で推移したものの、2021年Q3は2.6%、Q4は2.3 %で着地した 。一見すると市場はやや減速かとも考えられるが、そうではない。「現状、物流施設市場が堅調である」との見解は、前出の3氏とも変わらない。むしろ、首都圏を中心に行われた大量の新規供給を吸収する需要が存在したと評価する。 
だが、どこまで今後の大量供給を埋められるかとなれば、3氏の発言にある優勝劣敗の気配が浮上する。2022年~2023年にかけてCBREが見込むLMTの新規供給量は約536万㎡で、2023年Q4時点における同空室率は4.3%を予測する。前出の熊谷氏によれば、「5%を超えない限りは、物流施設市場は活況と見て問題はない」。一方で、2023年時点における首都圏のLMTストックは約25 00万㎡を超える見通しで、LMTに限っても相応の空きが生じる。郊外の広大な土地に大規模な物流施設を建設し、そこにおう盛な需要が付いてくるという局面は終焉を告げそうだ。
 では、選ばれる物流施設とは何か。C&W の熊谷氏は「集約効率と労働効率をいかに上げられるかが重要」と見 ており 、その要因の1つとしてトラックの積載効率が2016年以降40%を割り込んでいる非効率性 を指摘。 「貨物総量に大きな増加は見込まれていない。だが、少量多頻度の都市型物流機能を 集約するエリアとして適さない遠隔地 は需要が弱まる可能性が高まっている 」としたうえで 、「 郊外でも ネットワーク効果が活かせる立地は、賃料が上昇する余地もある」と述べる。 EC市場を支えるフルフィルメント事業者 が確保する大規模施設は郊外であることは多いが、複数の拠点でネットワークの構築を図り効率化を進めている。となれば、物流施設の立地は単に高速道路のICに近ければよいわけではなく、ネットワークの一環として機能する重要な結節点を見極めることが重要と言える 。
 また、労働効率はいかに労働力を確保 し、生産効率につなげるかにかかっている。プロロジス の山田社長 が、「入居を考える企業 は、雇用が確保出来るかを必ず確認する」と述べるよう に、大規模物流施設ともなれば、1000人~1500人もの労働力が必要となる。ロボットや自動倉庫の導入は 始まっているが、大幅な人員削減にはまだ相当の時間を要する。他方 、物流施設が地域内に過剰集積することで人手が奪い合いとなり、大規模な募集を繰り返すため、リクルートコストが嵩むという地域もあるようで、物流網と労働確保の両輪で効率化を達成する立地が選好条件だ 。

過熱した市場から 効率化のステージへ ―全国に商機見出す物流施設市場(下)へ続く

2022/2/5 不動産経済ファンドレビュー

コメントをどうぞ
最新情報はTwitterにて!

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめ記事