国土交通省は29日、20年7月1日時点の都道府県地価調査(基準地数=2万1519地点)を発表した。全国の全用途平均は△0・6%(前年+0・4%)となり、17年以来3年ぶりに下落に転じた。これまでインバウンドが牽引し、プラスで推移していた全国の商業地は△0・3%(+1・7%)となり、5年ぶりに下落に転じた。全国の住宅地は△0・7%(△0・1%)で下落幅が拡大。コロナの影響で3年ぶりの地価下落となった今回の都道府県地価調査に、業界トップは次のようなコメントを寄せた。
菰田正信・不動産協会理事長
来年度には3年に一度の固定資産税の評価替えが、本年1月1日時点の地価公示をもとに行われる予定だが、1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、経済情勢が急変し、ほとんど全業種にわたる企業収益が急速かつ大幅に悪化している。評価替えが予定通り行われると、全業種において企業規模や収益の多寡にかかわらず広範な納税者に大きな負担を強いることとなる。こうした事態を回避するためにも、一定期間の固定資産税の税額の据置等の緊急措置が不可欠だ。
山代裕彦・不動産流通経営協会理事長
既存住宅の流通市場は、東日本不動産流通機構のデータによれば、成約件数は4月に前年比で約5割の大幅なマイナスとなったが、以後、減少幅は縮小し、8月は前年比で2割増加、一旦下落した価格も前年を上回る水準となっている。仲介の営業現場でも、緊急事態宣言に伴う外出自粛や営業休止の影響で取引件数は大きく落ち込んだが、足元では前年水準まで回復してきている。
坂本久・全国宅地建物取引業協会連合会会長
全用途平均が0・6%のマイナスとなり3年ぶりに下落に転じ、住宅地は下落幅が拡大し、商業地も5年ぶりに下落に転じた。1年間の前半は回復傾向が継続したが、後半は新型コロナウィルス感染症の影響により需要が弱まり、上昇幅の縮小や横ばいから下落への転化となった。新型コロナの影響により、市場全体が様子見の傾向による取引の停滞などが見受けられる。
原嶋和利・全日本不動産協会理事長
「地価LOOKレポート第2四半期」の結果に続いて、コロナ禍による景気減退の影響が如実に示されているといわざるを得ない。土地・住宅市場の活性化により、国民の明るい暮らしを下支えするため、地価の健全な上昇基調は引き続き堅持しなければならない。政府には経済全体の浮揚を期するため、是非とも抜本的な成長戦略を打ち立てていただきたい。
吉田淳一・三菱地所社長
この1年、前半まで回復傾向にあった地価が、後半に新型コロナウィルス感染症の影響を受けて変化した。引き続き、新型コロナウィルスとの共存を踏まえた各種取り組みを推進し、ポスト・コロナ時代のまちづくりを加速していく。ニューノーマルをはじめとした多様化するニーズに応え、新たなワークスタイル・ライフスタイルを提案・提供していく。
仁島浩順・住友不動産社長
新型コロナウイルス感染症の影響により、世界的に経済活動が停滞した中、国内においても入国規制や緊急事態宣言下における外出自粛等により、経済活動が停滞した。その結果、先行き不透明感の強い状況を反映し、商業地の上昇幅が三大都市圏を中心に大きく縮小、住宅地は利便性や将来発展の期待が高い地域を除き、総じて下落に転じた。
岡田正志・東急不動産社長
今後の不動産市場については、国際情勢などのマクロ要因や東京オリンピック・パラリンピックの開催の可否、コロナ禍の影響に注視する必要があるが、長期的な視点では市況を悲観的には捉えていない。特にオフィス関連では組織全体の一体感を生み出す、社内外のあらゆる人と「コミュニケーションの活性化」ができるオフィスの存在は今後も必要不可欠であると考えている。
野村均・東京建物社長
オフィスビルについては、一部のスタートアップ企業やIT系企業等によるオフィス解約の動きもみられるが、全体的には影響は限定的で、需給は引き続きタイトな状況が続いている。むしろ、リモートワークの長期化により、リアルなオフィス空間の重要性が再認識されてきているのではないかと感じている。分譲マンションは概ね5月下旬から販売センターを順次再開したが、お客様の来場は各物件とも好調に推移している。
宮嶋誠一・野村不動産社長
住宅市場に関しては、新型コロナ感染症拡大の影響が懸念されたものの、潜在需要の顕在化、価値観やニーズの多様化を受け、新築中古ともに足元では好調に推移している。都心・駅前立地の新築マンションへの評価は依然として高く、一方で、都心から少し離れたエリアでも交通利便性・生活利便性に優れる物件や、郊外の戸建ても好調である。また中古についても、緊急事態宣言解除後は急速に回復し、首都圏では8月の成約件数が前年を大きく上回るなど好調に推移している。
伊達美和子・森トラスト社長
観光業には未だ逆風が吹いているが、地方リゾートにおいては国内観光客数が少しずつ回復傾向にあり、直近の連休期間には首都圏の観光地にも賑わいが戻るなど、人々の観光に対するニーズが消失していないことが明らかとなっている。海外における訪日ニーズも高く、将来的にはインバウンドのⅤ字回復の可能性は高い。コロナ禍が収束した際のインバウンドの呼び込みは世界各地の競争となるため、国内の観光業が抱えている課題の克服、および観光地の魅力向上に取り組み、将来に備えておく必要がある。
2020/09/30 日刊不動産経済通信