相続登記の義務化法案成立に寄せて(下)司法書士総合研究所主任研究員・石田光曠

相続登記の義務化法案成立に寄せて(上)より続く

土地の受取機関は国ではなく市町村


 「いやいや、日本でも今年4月に『相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律』ができたではないか」と指摘される方もいると思う。実際はどうだろうか。前述の国庫帰属法案の中身は、従前の不在者財産や相続財産管理制度とほとんど同じ要件で、この要件に合致する土地は、金額さえ考慮すれば処分できるのでは? というほど厳しい内容である。多くの実務経験者は、とても前進とは感じていないだろう。また、たとえ国庫に帰属したとしても、その土地はそのまま空き地として管理されるだけだ。それは、国庫帰属の担当官庁が財務省理財局である限り仕方ないことである。所有者不明土地問題解消を目的とした土地の受け皿は、土地を土地として受け取り、地域のインフラとして再生し活用できる行政機関が受け皿になるべきであろう。
 この点世界では、土地の最終的帰属者を国庫とし、さらにその受け取り権限を市町村に委譲している。土地を土地として受け取る機関としては、市町村が一番ふさわしいからである。そして市町村は、事前に定めた土地活用計画(マスタープラン)に沿って、その土地を再生活用する。

日本版ランドバンクの待望


 市町村が土地の受け皿となるために参考になる制度がアメリカにある。「ランドバンク制度」と言う。日本にもランドバンクという名称を使った空き家バンクはあるが、機能は大きく異なる。人口増加が続くアメリカでも、都市単位では工場閉鎖など産業構造の変化による人口減少を経験している。五大湖周辺の旧工業地帯の土地である。地域の基幹産業である工場が閉鎖されると人口が半減し、空き家率が30%程度になった。1960年頃のことである。当初、州政府は、空き家を空き家バンクに登録させ、流通市場に委ねる政策を採った。現在の日本と同じである。ところが、市場任せにしておいたら、空き家が投機目的で流通し、人口が増えないにも関らず、反ってスラム化が増幅した。そこで、空き家を流通に乗せず積極的に自治体(市町村)が回収し、人口減少に合わせた都市計画(マスタープラン)に回収した土地を当てはめるという政策に州政府は180度転換した。そのためには、自治体が所有者のままでは公開競売しかできず都合が悪いため、ランドバンクという官でも民でもない特別な受け皿機関を法制化し、そこに回収した土地を移管し、マスタープランに沿って随意契約で適切な活用者に回収した土地を提供していった。住宅や福祉施設などの積極的利用だけでなく、ある土地は隣地に譲渡して敷地の一部として、ある土地は非居住地に転換して公園や自然に戻すこともした。結果、景観や治安が回復し、行政機能を持続可能なものにした。このランドバンク制度は、その後のリーマンショックによる空き家問題にも効果を発揮し、現在も13州150法人が継続している。
 今の日本には、まさにこの考え方とこの受け皿機関が必要である。市町村が国の窓口機関として余りはじめた土地を受け取るためには、まず、その自治体ごとに人口動向に合わせた土地活用計画(マスタープラン)とその実行予算が必要である。そして、具体的なあっせんと手続きは法律で定めた専門機関(日本版ランドバンク)が担当する。
 このアメリカのランドバンク制度の詳細と日本版ランドバンク構想については、昨年11月に発表した論文*で具体的に示しているので、ご覧いただければ幸いである。

*石田光曠「世界の制度との比較から所有者不明土地問題の本質と対策を考える」~特に引き取り手のない不動産の受取制度と相続開始後の管理及び登記制度を中心に~(2020.11 土地総合研究所 土地総合研究2020秋号)
https://www.lij.jp/html/jli/jli_2020/2020autumn_p028.pdf

2021/09/01 不動産経済Focus&Research 

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