(法定耐用年数が過ぎたマンションはいつまで住むことができるのか?(上)より続く)
実際の耐用年数を知ることがマンション長寿命化の出発点
実際に建築物を使用できる期間、つまり建築物の物理的な耐用年数については、日本建築学会が一定の数値を示してい る。地方自治体が公共施設の目標耐用年数を検討するときもこれを参考にすることが多いようだ。
例えば、台東区公共施設保全計画(平成28年)は標準的な鉄筋コンクリート造の建物について、普通品質のコンクリートの場合「局部的で軽微な補修を超える大規模な補修を必要とすることなく鉄筋腐食やコンクリートの重大な劣化が生じないことが予定できる期間」を大規模改修不要予定期間として65年、「継続使用の為には骨組の大規模な補修が必要となることが予想される供用限界期間」を100年と設定し、台東区はこの数値をもとに、小中学校等の公共施設保全を計画している。こうしたことから、鉄筋コンクリート造のマンションは法定耐用年数の47年より、かなり長く使用できると考えても差支えなさそうである。
では、実際に築年数がかなり経過したマンションの建物を、将来どの程度使用できるのか客観的に評価する方法はあるのだろうか? この問題に答えてくれるのが、一般財団法人日本建築センター(以下、「BCJ」)の「既存鉄筋コンクリート造建築物の構造体の耐用年数評価」(以下、「耐用年数評価」)である。
鉄筋コンクリートは、圧縮強度を負担するコンクリートと引張強度を負担する鉄筋を組み合わせた構造部材である。酸化しサビやすい鉄筋を強アルカリ性のコンクリートで守って錆びないようにしている。しかし、空気中の二酸化炭素がコンクリートの表面から浸透することで、コンクリートが徐々にアルカリ性を失い「中性化」し、鉄筋に錆が生じていく。
これらを踏まえ、BCJでは鉄筋コンクリート建築物の耐用年数と寿命を次のように定義している。
①建築物の耐用年数:コンクリートの中性化がごく一部の最外側鉄筋に到達する期間。②建築物の寿命:鉄筋の錆が進行し、コンクリートに重大な劣化や損傷が発生することにより、使用不能になる状態となる時点。
BCJの耐用年数評価は、「中性化」の進行状況を把握することで、建築物の実際の耐用年数を評価する。具体的には、外壁等から採取したコンクリートコア供試体に対し中性化試験等を行い、その結果に基づき現況のまま通常の維持管理を前提とした場合の構造体の耐用年数を評価する。さらに中性化抑制等に効果的な改修を実施する場合の耐用年数延長効果を考慮した耐用年数も評価する仕組みである。
評価のプロセスとしては、まずBCJ内に設置した「既存建築物の耐用年数評価委員会(以下、「評価委員会」)の委員(学識経験者)が現地調査を行って、コンクリートコア供試体の採取位置など調査内容を確定する。これにもとづき検査会社がコア供試体の中性化試験と圧縮強度試験やコンクリートの含水率やひび割れ部分の鉄筋の腐食状況、コンクリートに含有される塩化物イオン量の調査等の結果をもとに評価委員会で審議して最終的に耐用年数を評価するという流れである。
なお、既に中性化が鉄筋にまで到達している場合でも、②で示した状態でなければ、直ちに使用不能ということではないとしている。鉄筋の腐食の進行を抑制するのに効果的な改修工事を実施し、定期的に点検と補修を継続することにより、寿命(使用可能期間)を延長させることができるとしている。
BCJは耐用年数を評価することで、今後使用可能な年数の把握だけでなく、構造部材の劣化状況を踏まえた適切な改修と維持管理を実施することが可能になるとしている。さらに、一定期間毎に劣化状況や耐用年数を確認し、適切な改修と維持管理を継続することにより、建物の耐用年数や寿命を伸長させていく「長寿命化の好循環」も期待できるとしている。
国土交通省住宅局監修の「長持ち住宅の手引」(ベターリビング刊)によると、取り壊される住宅の平均築後経過年数は、日本は約30年、イギリスは約77年、アメリカは約55年である。また、東京カンテイが建替えられた全国のマンション202棟を調査したところでは、全国平均33.4年、東京都40.0年である。
地球温暖化が進み2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを目標とする現在は、マンションの寿命についても発想の転換が必要である。建物の実際の耐用年数を把握して、長寿命化につながる維持管理と適切な改修等を行うこと、さらにはマンションの生涯をマネージメントすることが、マンション管理に関わる者のこれからの課題である。
2021/5/5 月刊マンションタイムズ