「コロナ下で再評価されるヘルスケア市場」<br>―ディフェンシブ性が改めて注目された
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 新型コロナウイルスの感染拡大が、不動産投資市場に影響を与える中、レジや物流施設が安定性、成長性で再評価されている。さらに水面下で投資家から安定性を再評価され、人気が出ているのがヘルスケア市場。新型コロナウイルスによるヘルスケア市場への影響と現状について探る。

感染拡大下でも稼働率や分配金に変化なし
欧米のヘルスケア市場と比べ、安定性を維持

 新型コロナウイルスによる感染拡大は、不動産投資市場に大きな打撃を与え、商業施設やホテルを中心に稼働率の低下やテナントによる賃料減額、減免要請が多く見られた。7月中旬時点でも先行きの不透明感は強く、売買市場では様子見の状態が続いている。一方、高齢者向け施設を中心に投資対象としたヘルスケア市場が投資家から安定性を再評価され、注目されている。ヘルスケアアセットマネジメントの吉岡靖二社長は運用しているヘルスケア施設について「稼働率、入居者数、分配金はどれもコロナウイルス感染前と大きく変わっていない」と強調。むしろコロナ禍でも分配金は増額したという。ヘルスケア市場のうち、メインのアセットである高齢者向け施設は、2月から4月にかけて新規入居者の案内といった営業活動は抑制されたものの、退去者も増えず大きな影響は出なかった。むしろ自宅での介護に不安を抱え、急遽老人ホームへの入居を依頼するケースも見られたほどだ。ヘルスケア施設のうち、病院やデイサービスは、新型コロナウイルスの感染拡大前と比べ収益が2割から3割落ち込んでおり、一部では5割以上落ち込んだ施設もある。しかし、KPMGヘルスケアジャパンの松田淳代表取締役は「高齢者向け施設は1割も減少しておらず、安定している」という。
 高齢者向け施設が高い安定性を維持できたのは、2つの理由がある。施設の運営側が感染症への対策を十分に備えており、新型コロナウイルスの感染拡大を防いだこと、もともと稼働率がオフィスや商業施設などより景気動向に左右されにくいことがある。
 日本の高齢者向け施設は医療福祉関係から派生した施設が多いため、管理体制は病院などに近い。オペレーターは従前から新型インフルエンザ、ノロウイルスといった感染症対策に常に気を配っており、消毒、マスクの着用も行っていた。実際に大和リアル・エステート・アセット・マネジメントが運用する北九州の高齢者向け施設では、感染者が出たとき、感染者等の隔離や施設者全員の検査などの対応を素早くかつ徹底したことで感染拡大を防いでいる。福島寿雄社長は「とにかく運営会社が素早く対応してくれたのが大きい。家族の面談なども徹底して抑制し、外から持ち込まないことを前提に仕事をしていた。医療機関との連携が強いのも重要なこと」という。
 一方、米国や英国の高齢者向け施設は賃貸住宅から派生した施設が多いため、衛生面に対する意識は日本ほど高くない。日本と比べ欧米の高齢者向け施設で集団感染した事例が多いのも管理体制が根本的に違うためとされている。現状、欧米のヘルスケアリートは投資家からディフェンシブ性を疑問視され、売却されるケースが多くみられたが、日本では多少株価につられ投資口価格の下落はあったものの、いち早く立ち直している。

ディフェンシブ性の高さが再評価
人手不足も緩和傾向に


 もともと、ヘルスケア施設はディフェンシブ性が高い投資商品とされていたが、市場に出回る物件数が少ないことに加えてオフィスビルや物流施設より資産価格が大きくないため、「どこか他のアセットに隠れるような存在だった」(吉岡社長)。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大下でも高い安定性を維持していることで、個人・機関投資家から新たな投資先として検討されている。吉岡社長は「足元で投資が増えているわけではない。しかし、投資家は投資先を見直している段階であり、新たな投資対象としてヘルスケア施設を挙げる人は一定数いる」という。
 新生銀行の伊藤通英ヘルスケアファイナンス部部長は「ホテルや商業施設に投資する予定だった資金がヘルスケア施設に流れていく可能はある」とし、「コロナの影響で不動産投資を様子見していた投資家も多い中、ヘルスケアアセットについては、新規案件の商談が止まっておらず、価格も下がっていない」という。福島社長によるとヘルスケア施設のうち、都心の高齢者向け施設の利回りは4%台で推移しており、同じディフェンシブな物件であるレジよりも高い。そのため今後、安定投資案件として人気は上がることが予想される。また近年、ESGやSDGsに関連した投資が普及していることも人気を後押しすることになる。
 さらに、従前からオペレーターの大きな課題とされていた人手不足の問題も緩和傾向にある。足元ではホテルや飲食業で働いていた人たちが、介護関係に流れているケースが出ているためだ。あくまで緩和傾向であり、根本的に人手不足の問題が解決したわけではないが、松田氏は「従前からヘルスケア施設業界で課題とされていた人手不足の問題がコロナでどう影響を受け、また改善するのかが1つのキーポイント」と見る。
またオペレーターは、新型コロナウイルスの影響により、統廃合や再編がより進むという見方が強い。吉岡社長は「オペレーターも平時に稼働率を維持するのではなく、有事の際にどれだけ対応できるかが注目された」とし、感染が広がる中、マスクや消毒液などを多様なネットワークを駆使して取得できたオペレーターの存在感が増したという。米国では1980年代後半から1990年代にかけてオペレーターの業界再編が本格化し、運営能力の優れたオペレーターがリートと協働することで、市場を成長させてきた。日本でも同じように再編が進み、経営基盤がより強固になれば、市場の成長性も加速することが期待できる。松田氏によると、日本のオペレーターの平均成長率は5%で推移しており、以前より下がっているものの、安定的な成長を続けていることもあり、一定の盛り上がりは期待できると見る。また新たな動きとして地方金融機関が、ESGの観点やポートフォリオの多様化のため、ヘルスケア施設への投資を検討することも聞かれている。
 ヘルスケア市場では投資家層の拡大とオペレーターの資本増強により、新規に開設する施設の流動化ニーズは高まることが予想される。新型コロナウイルスは、あらゆる業種に影響を与えたが、ヘルスケア市場にとっては、大きな転機となったことは間違いない。

2020/07/25 不動産経済ファンドレビュー No.538 

 

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