マンション管理の今後の方向性とDXの取り組み 大和ライフネクスト マンションみらい価値研究所 久保依子氏
大和ライフネクスト・久保氏

不動産経済研究所は「第110回不動産経営者講座 変容する不動産市場の最新動向と今後の事業戦略」と題したセミナーを3月8日~19日にオンラインで配信した。プログラムの中からマンション管理に関係する大和ライフネクスト・久保依子氏の講座のサマリーを紹介する。

コロナ禍を追い風にIT化が加速

 実は最近の管理業界はとても元気だ。コロナ禍により会社と自宅の垣根がなくなり、家の存在価値が変った。清掃や消毒など、この時代になくてはならない仕事をしているという誇りが出てきている。現場の士気の高まりと並行して、次の時代を考えていく良い機会に恵まれたと言えよう。

人と人とが接触しないオンラインによる理事会・総会、それと同時に行われる重要事項説明などをオンラインで実施しようとする動きが加速している。2020年2月から7月までの間、通達やガイドラインが公表され、管理会社のIT化は加速した。今までの区分所有法の解釈はIT化しようとするといきなり厳しくなる印象があった。たとえば組合の総会に参加する際は集会室の受付で部屋番号や氏名を告げれば本人として参加してもらえるが、これを電子的手法による議決権行使にしようとすると、なりすまし防止策として電子認証や電子署名を求められる。コロナ禍で人が集まることを回避することが最優先となったことから、オンライン画面の向こうで部屋番号と氏名を告げれば本人として参加できることが明確になった。柔軟な対応が可能になったことでIT化への追い風になっている。

 管理会社の重要事項説明もマンション管理適正化法改正でオンラインによる重要事項説明や電子メールでの重要事項説明書の送付が認められた。ただし管理会社の契約業務のすべてをIT化するのは難しいだろう。改正適正化法は一部の手続きに区分所有者の承諾書を求めているが、新築マンションの場合であれば区分所有者全員に連絡がつくが、築年数を経たマンションは空き家や相続人がいない住戸などもある。個人情報の取得や更新、保管の手間と住戸ごとに異なる対応をする手間を考えると従来通りの紙を選択する会社も多いと思われる。

 当社はコロナ禍以前からIT化、ひいてはDXにつなげる取り組みを進めてきた。AIやロボットを使い業務を省力化する一方で、人にしかできない仕事により特化できると考えている。当社ではRPAを導入した自動化のほか、契約にまつわる支店からの問い合わせ電話のAIでの受信、社内のデータをAIに流し込み、修繕工事の受託率の高い提案を特定し、優先順位をつけたり、提案内容を変更することに活用している。

 その一方でマンション建替え決議や敷地売却決議など5分の4の賛成を要する決議を避けて通れなくなるであろう日本のマンションにおいて、管理会社の担当者の力量はますます必要となる。DXと同じ重きをおいて人づくりを考えていく必要があるだろう。

管理組合活動の評価が管理会社の評価に直結

 今年度から適正化法改正によりマンション管理計画認定制度が創設され、同時平行してマンション管理業協会がマンション管理適正評価制度を創設する。どちらの制度もソフト面の運用がうまくなされているマンションの価値を高めようとするものだ。マンション管理計画認定制度は認定があるかないか、どちらかのマンションに分かれるのに対し、マンション管理適正評価制度はマンションをSからDまでのランク付けを行う。この2制度はバラバラにならないよう連携が取られる予定だ。今までの住宅性能評価制度のようなハードの評価にない項目としては管理規約がマンション標準規約の最新版に改正されているか、組合の防災活動がされているかなど、管理組合活動がうまく機能していないと高評価が得られにくくなっている。今までマンション管理会社は管理戸数の多寡によって評価される傾向にあったが、これらの制度によって管理組合ばかりでなく管理会社の評価につながる可能性も出てきた。管理組合活動が行われず修繕工事もままならない、そういった管理組合にもさまざまな働きかけをしてきた。それが管理会社の社会的な価値だと思う。

 最後に大和ライフネクストが運営するマンションみらい価値研究所の活動についてお話したい。管理会社はさまざまなデータを持っているが今まではそれらを積極的に公開する管理会社はなかった。しかし、こうしたデータはこれから建築されるマンションに活かされたり、管理組合で検討されていることに活かされる必要があると考え、同研究所を立ち上げた。月1件のペースで報告書をアップしており、これらの報告書が将来のマンション生活に役立てることを願っている。

2021/4/5 月刊マンションタイムズ

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