特集 東日本大震災から10年;東北再生へ仙台市の「成長戦略」正念場 
ジェイベースの戸建て住宅(同社HPより)

地域企業支援に本腰、不動産会社上場も

 東北6県の中心地である仙台市が、復興の先を見据え地域再生に本腰を入れている。一昨年3月、地場産業の育成や起業支援、他地域との連携強化など7施策で構成する「仙台市経済成長戦略2023」(19~23年)を策定。高齢化や人口流出で地域経済が先細る流れを止めようと改革に乗り出した。コロナ禍で地方への拠点分散を考える在京企業が増えつつあるのをチャンスとみて、企業誘致・保護の取り組みを強化。2月には7年ぶりに上場する地元企業が不動産分野から現れるなど、着実に成果が出始めている。
 「仙台が東京経済圏に飲み込まれるのではないかという強い危機意識があった」―。戦略を取りまとめた仙台市経済局経済企画課の幹部はそう打ち明ける。宮城県が3・11後の10年間を震災復興計画の実行期間とした一方、仙台市は計画期間を半分の5年に定め、がれき処理や被災者への住宅供給などをいち早く終えた。地域経済を底上げしていた復興事業が終盤に差し掛かる頃、市は「ポスト復興期」の施策を考え始めていた。仙台が自立する基盤となる産業を生み育て、呼び込むための実行計画を打ち出す必要があった。
 そうして作った「経済成長戦略」も4月に3年目、折り返し点に入る。戦略では地場産業の99・6%を占める中小企業の経営支援を最重視し、誰の目にも施策の達成度が分かるよう数値目標や成果指標を明確にした。具体的には、最終年までに黒字企業の割合を17年度時点の47・7%から50%超に高めるとの目標を掲げた。市内企業の黒字化率は98年から20年以上、40%台の低位が続いている。戦略には5年間に150件の企業を誘致したり、新規開業3年後の事業継続率を70%に保ったりするなどの指標も示した。市は戦略期間の後半戦で地域産業の足場を固めたい考えだ。
 


仙台の不動産会社が7年ぶりに上場

 仙台市内の全事業所に占める支店の割合は16年時点で43%と全国の政令指定都市で最も高い。しかも事業所の8割が、コロナ禍で傷を負った小売りや飲食、宿泊などの第三次産業だ。人口減少が加速していることも競争力強化を阻む障壁となる。仙台から東京圏への年間転出超過数は17年時点で3502人と全政令指定都市で最多になった。市は「コロナの感染が落ち着けばさらに多くの人が東京に流れる」(経済局企業立地課)と懸念する。流動的な「支店経済」への依存度を下げ、東北から仙台に集まる若者が定住できるよう地場の有力企業を育てることが急務になっている。
 3・11発生から10年が目前の2月25日、注文住宅販売のジェイベース(仙台市青葉区、高橋淳也社長)が東証の東京プロマーケットに上場した。3・11後に事業を売却した高橋社長が再起。市が地元企業の上場を集中支援するプログラムに参加し、東北の企業では14年3月以来7年ぶりに新規株式公開(IPO)を果たした。20歳~30歳代の若い一次取得者らに最低価格1300万円台の値頃な家を供給し、住宅分野で仙台、ひいては東北の再生を力強く支える方針だ。
 仙台市内では3・11以降に建築費が上がり続け、特に中心部のマンションは販売価格が高止まりしている。「このまま供給が増えれば建築費を販売価格に転嫁できなくなる」(独立系不動産会社)との見方もある。一方で戸建て住宅はコロナ禍が順風となり仙台でも売れ行きが好調だ。ある有力ビルダーのトップは「東北では良い家は高くても売れる傾向がある」と話す。
 北関東が地盤のケイアイスター不動産は昨春、仙台に初の営業拠点を出した。首都圏に比べ競合他社が少ない仙台で新築・中古住宅の新たな顧客層を開拓するという。震災後、独立系企業ではタカラレーベンやフージャースコーポレーション、あなぶきホームライフ(旧セコムホームライフ)らが仙台に進出した。東京から仙台に出た企業は「大きくはないが確実に一定の需要がある」と口をそろえる。
 仙台市も企業を呼び入れる体制作りを急ぐ。経済成長戦略に示した「5年で150件の企業誘致」を達成するため、沿岸部の蒲生北部地区や仙台港などに企業を迎え入れるインフラを整備。市中心部では19年夏に「せんだい都心再構築プロジェクト」を始動させ、容積率緩和や補助拡充で転入企業の受け皿となる大型開発を促そうとしている。昨秋にはGMOインターネット(東京・渋谷区)が災害時のリスク分散などを理由に仙台への事業所移転を表明した。市の幹部は「東京から陸路で約2時間の仙台に代替機能を置く企業が増えている。ライバルは札幌、広島、福岡だ」と力を込める。
 仙台の産業振興を考える時、23年に東北大学青葉山新キャンパスで運用が始まる「次世代放射光施設」が大きな目玉になる。物質の状態や機能をナノレベルで解析する言わば「巨大な顕微鏡」で、医療や食品、半導体、燃料電池、建設資材など広範囲の技術開発に使われる。地元の産学官はこの施設を核とする研究都市の形成を目指しており、市の「戦略」にも重要施策に位置付けられている。具体的には、施設のある青葉山や市中心部に関連企業を集め、研究と事業化のエコシステムを作る計画だ。コロナ禍で場所や時間に縛られない働き方が広がるなか、仙台の産業界は転入人口を増やす契機になると期待している。(日刊不動産経済通信

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