2020年を振り返ると、コロナに象徴される、「100年に一度」が起きた年と言えよう。ただこれからは、100年に一度が毎年起きる時代になっていくというのも真実なのではないか。
世界経済は回復感に乏しい成長に
IMFの2021年世界経済見通しでは、2020年は中国以外の全ての国でマイナス成長であった反動もあり、やや回復してプラスにはなるだろうが、以前の水準まで戻るのは難しいとの予測である。日本がある程度の水準を取り戻すのは再来年になるではないか。しかし、今年前半は全く先が見えない状況であったが、現在はやや安心感を持って年末を迎えられる雰囲気になっている。その要因としては、米中の経済が予想以上に強かった点、そして震源地であった中国の回復が非常に早いのはやや微妙な気持ちにもなるが、グローバルな製造業を中心とした中国の回復、が挙げられる。これらによってまだ救われた状況になっているとも言えよう。
コロナ禍における世界経済を考える際、4つの時間軸(①感染症、②政策対応、③市場、④経済)が微妙に異なっている点を考慮しなくてはいけない。感染が認識されたのは中国では昨年末、日本では年初であったが、市場が反応したのは2月末。微妙に異なっているのを認識しておくのは、今後を予測するうえでも非常に重要である。
影響直撃、コロナ7業種
今回のコロナショックのポイントは、資本の問題だと思っている。今回のコロナショック、人との接触を避けるなかで起きる問題は、ある面で経済活動に麻酔をかけているようなもの、生体反応を意図的に止めているのと同じだ。接触を避ける、密を避けるのは基本的にサービス業が中心で、その期間の売り上げがなくなる。製造業であれば売れないモノは在庫にしておいて売れるときに売る。だが、サービス業は一度売り上げを失うと取り戻すことはできない。つまり毀損された「資本」をサポートするためには補助金等の資本供給が必要だったのだが、現実には政策金融機関、民間金融機関を通じて約40兆円が無利子無担保で貸し出された。
バブル崩壊時は資産デフレで、株や不動産の価値がぐっと下がり負債が残って資本がなくなる、債務超過になるという過剰債務の問題であった。だが今回は、バランスシートの資本が毀損した。これが出発点。つまり、バブル崩壊時にはバランスシート左側(資産問題)であったが、今回は右側(資本問題)だと理解すればいい。バブル崩壊時には資産価格が下落しバブル3業種(不動産・建設・卸小売)にお金を貸していた大手銀行も大打撃を受けた。今回は売り上げ消失に伴う資本の問題で、打撃を受けたのはどちらかというと中堅中小、零細企業であるコロナ7業種(陸運・小売・宿泊・飲食・生活関連・娯楽・医療福祉:資金繰り・自己資本比率・損益分岐点から選択)で、ここにお金を貸していたのは地域の金融機関が中心であったため、比較的素早く政策が打たれる状況となっている。
コロナ7業種は「4・2・1」で説明できる。全体の雇用に占める割合の約4割、売り上げは2割、利益は1割。つまり生産性が低めで、比較的低賃金である非正規雇用や女性、外国人など比較的経済弱者が中心に従事している。
コロナが問題になってから1年近く経過しているが、雇用、売り上げ、利益の部分でこの7業種はかなり影響を受けた。先ほど申し上げた無利子無担保40兆円の貸し付けで確かに安定感は出た。倒産件数も1989年以来の低水準にとどまっている。ただ、コロナ7業種は、収益性が低く返済が難しい。そもそも現金商売である。それにもかかわらず40兆円貸してしまったのだから、返済が難しい状況になりやすい。無利子無担保期間である3年間にいかに事業構造改革ができるかが、今後数年の日本経済にとってかなり重要である。
業種間で二極化が顕著に
空前の金融緩和もその要因
一方で、二極化、格差の問題が生じている。航空など厳しい業種はあるものの、コロナ7業種が被った損失に比べ大企業は無傷に近い。アメリカと比べ日本企業は自己資本比率が非常に高く、しかも株や不動産が値下がりしていない状況なので、今年2~3月のような減損処理の必要もない。不動産や株、資産価格が下がっていない背景には、世界中の金融緩和がある。世界中がゼロ金利、日本とアメリカはマイナス金利という状況にあるためだ。これがいつまで続くのか。70年代以降の日米欧の金融政策は連動しており、出口を迎えるときは常にアメリカが最初で日本が最後。アメリカは2023年末まで緩和を続けると言っており、通常アメリカと日本の差は1年以上あるので、日本は2024年以降、20年代半ばまではこうした超低金利が続く時間軸になろう。
こうした中で、世界中の銀行はカネ余り状態にある。預貸ギャップが拡大、預金の方がもっと増えており、そのお金をどこに入れようかと、世界中の金融機関と機関投資家が頭を悩ましている状況だ。このお金があふれ出したのが11月以降。世界中の中央銀行のお金や財政政策はコロナ7業種にピンポイントに行われればいいのだが、そういう形の薬はないので通常の劇薬に近い金融財政政策で対応したため株と不動産を中心とした資産価格が上昇した。株や不動産所有者はいいけれど、厳しい人は厳しいままと、従来からあった二極化が鮮明になったと言えよう。その結果、資産バブルと言われるような状況が生じている。特にアメリカ、日本もコロナショックの前の水準より高くなっている。
今後のリスクシナリオは、コロナ感染拡大とともにが、コロナ感染終息も挙げられる。以前の水準より高い資産価格になったのはコロナがあったことによる金融財政が原因なので、ワクチン開発成功によるコロナ終息が株式市場の暴落要因になる可能性もあるというのはやや皮肉であるが、考慮しておくべき点である。(続く)
(不動産経済研究所主催「年末セミナー」より収録)
2020/12/23 不動産経済FAX-LINE