―緊急事態宣言が再発出された。商業モールへの影響をどうみる。
大津氏 例年1月中旬から2月下旬にかけては商業施設の客足が最も落ちる時期だが、そこに緊急事態宣言の影響が重なり、全体に厳しい展開が予想される。苦戦が続く都市型施設は宣言発出による流動人口の減少が業績悪化の追い打ちになった。郊外型店舗も特に飲食店などは売り上げが落ちており、業態転換を迫られる店も出てくるだろう。ただ飲食業はもともと新陳代謝が活発な(入れ替わりが激しい)業種でもあり、感染収束後の業績回復に期待したい。
―地方都市の状況はどうか。
大津氏 GoToトラベルキャンペーンの影響で主要駅周辺に旅行者が溢れ、地元客の買い物需要が落ちたという声があった。首都圏と同様、地方も都市型店舗は苦戦し、郊外型は好調という傾向だ。だが地方の活性化は流動人口の拡大なくして実現しない。商圏を過度に縮小するのではなく、感染収束後に人出が戻ることを見据えて事業戦略を考える必要がある。
―コロナ禍でEC市場の成長に弾みが付いた。
大津氏 進化が3年ほど早まった。以前の事業モデルにはもう戻らないだろう。従来は立地の良い場所に出店するのが事業者の成長戦略における定石だったが、今は実店舗の比率を下げるのが共通認識になった。
―ECは拡大の一途をたどるという見方か。
大津氏 そうは考えていない。世界に目を向けると、インフラ整備に大幅な遅れがある場合などを除きEC化率が20%を超えた国は少ない。EC市場には競合他店が無数に存在しており、小売り事業者にとって良い面ばかりではない。このため実店舗とECの比率はやがて均衡するだろう。実店舗は、ITを駆使した「新たな店舗装備」で消費行動の変化に対応していく段階に入ると考えられる。
―デベロッパーの戦略も大きく変わりつつある。
大津氏 総合不動産大手は商業部門の採算が悪化すれば別のアセットに軸足を移せる。大手小売りグループなどの商業専業デベロッパーは店での買い物をスマートフォンなどで補助する新たな店舗装備を導入し始めた。小売り業に「オムニチャネル」や「DtoC」などの考え方が出てきたが、20年ほど前には「クリック&モルタル」(実店舗とECの並行運営)の概念があった。実店舗とECを絡める手法は新しいものではない。この先、そうした取り組みがさらに活発になる。
―実店舗の存在意義は今後どうなる。
大津氏 実店舗は来店者の五感に直接訴えられるという点でECよりも有利だ。ただ営業時間以外は機能を停止するのがネックで、そこをECで補うことが課題になる。例えば米国や中国の多くの実店舗では商品をデジタルで一元管理しており、ECとの連係が容易だ。一方、日本の実店舗はまだアナログ的だが手厚い接客や多様な商品展開が強みで、それらをデジタルで可視化したりデータベース化すれば新たなマーケティングの道が開ける。
―日本の小売り市場を中長期的にどう展望する。
大津氏 多くの事業者がアナログ的な商品管理を続けてきたせいでコロナ禍による変化に対応できず、閉店・廃業が相次いだ。業界では店舗のEC化やサブスクリプション導入などといった経営支援を求める需要が急速に高まっており、そこに対応するプラットフォームビジネスが数多く生まれている。実店舗からオンラインへという単純な図式ではなく、業態の垣根を越え、実店舗の形態や機能、売り方が大きく転換している。ECと実店舗を融合させた新たな小売りの枠組みができ、常に進化していく流れになる。
―自社の事業戦略も見直すことになる。
大津氏 多くのテナントからコロナ禍で10年分の現金を1年で吐き出したといった声を聞く。短期的には新店舗への投資を期待できない状況だ。だがコロナ禍でも複数のスーパーなどは出店先を広げ、実店舗を出すEC事業者も増えている。廃業した百貨店跡地の改修・転用案件を自社で受託する機会も得た。そうした店舗の跡地再生や不採算店舗のリニューアルなどは大きな商機になる。
※本シリーズは終了します。