特集・東京都心のオフィスに需給緩和の兆し<br>「潜在空室率」上昇、大型ビルに波及へ<br> ―都心で小型ビルの空室率が2年ぶり上昇
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 活況が続いてきた東京都心の賃貸オフィスビル市場に変調の兆しが出始めた。三幸エステートの調査では、主に大手企業が使うAクラス(級)オフィスビルの空室率は7月末時点で0・6%と低い水準だが、テナント退去前の募集も数えた「潜在空室率」は6カ月連続で前月の実績を上回ったことが判明。C級ビルの成約ベース賃料も第2四半期(2Q)末時点で2年ぶりに減るなど需給の緩みを示す数値が次々と現れている。新型肺炎の拡大で企業の業績悪化や働き方の変化が促されつつあり、感染が長引けば、施設規模の大小を問わずオフィスの需給に大きく響く可能性がある。
 「特に5月に入ってオフィス床を新設・拡張する需要が減り、縮小移転の要望が増えた。テナントの動きが明らかに変わった」-。オフィス市場に詳しいCBRE日本リサーチヘッドの大久保寛氏はそう指摘する。今年上期に同社に寄せられた移転要望を分析すると、新設・拡張移転が近年の平均値だった7割超から6割弱に減った一方、縮小移転も徐々に増え始めた。5月以降はそうした傾向がさらに強まっているという。
 ただ5月は政府による緊急事態宣言の影響で同社への相談件数そのものが前年5月の6割程度に減った。社員の「出勤率」が決まらず、大部分の企業が模様眺めの姿勢を保っていると考えられる。大久保氏は「床の解約が増え空室率が上がる動きが大きなうねりになるかは分からない」とした上で、都心の空室率について「向こう1年でAグレードは上がっても2%、Bグレードも2~3%程度だろう」と展望する。だが、東京都心ではA級ビルの供給量は21、22年にいったん減り、23年に再び増える見込みだ。このため空室率は23年以降に再び上昇基調に転じるとの見方が強い。
 三幸エステートが8月4日に公表した2Q(6月末)時点の都心オフィスの需給調査結果では、下降を続けていた小規模なC級ビルの空室率が、前期比0・5㌽増の1・1%と2年ぶりに上がった。この動きに伴い、賃料は1851円減の1万9301円と下がった。B級ビルの需給も同じ傾向だ。一方でA級ビルの空室率は前期比横ばいの0・6%と需給は相変わらず引き締まっている。外出自粛の余波でリーシングが停滞したものの、多くの貸し手はまだ強気だ。
 同社の今関豊和・チーフアナリストは「(コロナ下でも)A級ビルの需給変動が鈍いのに対し、B、C級ビルの空室率と賃料にいち早く変化が現れ始めているのはリース形態の違いが大きい」と話す。小規模なビルは事前の解約予告期限が数カ月と短いことが多い。借り手も意思決定が早いベンチャー企業などが主体のため入退去が活発になる傾向が強い。実際に都心のB級ビルでは二次空室が増えており、空室率に底打ちの兆しが見えるという。これに対し、A級ビルの空室率は00年に調査を始めて以来の最低値が4期も続く。
 ただ水面下では重要な変化が生じている。三幸の調査によると、テナントが退去する前の募集も数えた「潜在空室率」が上昇を続けているという。7月末時点で0・22㌽増の3・35%になったが、通常計算の空室率とのギャップが2・75㌽もある。このことは小規模なビルを中心に企業の解約が増えていることを示す。今関氏は「これから時間差で通常の空室率も上がる。来年の後半以降に定期借家契約の期限が切れるA級ビルにじわじわと解約が出てくる」と予想する。
 リーマンショック当時も今回と同じようにオフィスの床需要が減退したが、最初に潜在空室率が上がったのは、東京都心にあるA級ビルだった。今関氏によると、当時は床の返却と縮小移転のケースが多かったのに対し、今回は縮小移転は少なく、床を返却する企業が多いという。つまり今回のコロナ下では、新たに床を借りる動きが止まり、解約・返却の動きが積み上がっている。その結果、成約面積が大きく減ったというのが今の状況だ。今関氏は「リーマンショック当時と今回の大きな違いは『テレワークの普及』という新たな変数が加わったことだ」と指摘する。企業が職員の出勤率をどう設定するかによって適正な床面積が初めて決まり、オフィスの需給動向が見えてくる。
 
◎郊外のサテライトオフィスの需要が増加

 オフィスの賃貸仲介の現場では、テナント企業から拠点の分散や在宅勤務の代替としてサテライトオフィス新設の相談が増えているようだ。三菱地所リアルエステートサービスによると、移転やオフィス面積の増減など具体的な動きはまだ顕在化していないが、働く場所や時間などの適正化に関する課題意識を持つ企業が増え、相談が増加しているという。
 なかでも多い相談がサテライトオフィスの新設についてだ。メインのオフィスは賃貸借期間の関係もあり、長期的な戦略が必要になるため維持し、サテライトオフィスを新たに借りて在宅勤務の代替などテレワークニーズに対応したい考えだ。従来はメインオフィスへ戻らずに営業できる拠点として渋谷や新宿、池袋、上野など山手線主要駅の人気が高かったが、働き方が変わるなか、横浜や大宮、浦和、千葉、船橋などやや郊外のターミナル駅のニーズが強まっている。規模は20、30坪(5~10人)~100坪(30~40人)程度。社員1000人規模の企業から4、5拠点を新設したいという相談もあるという。
 企業側はまだ手探り状態で、トライアルとしての位置付けだ。短期間だけ借りられるサテライトオフィスのサービス会社の利用を視野に入れる企業も多い。各企業はテレワークの定着度やサテライトオフィスの利用状況を見ながら、中長期的にはメインオフィスの規模の適正化を検討していく考えだ。ただテレワークの普及は流動的な要素が強く、「働き方の選択肢の一つで、どこまで定着するかは分からない。社員がオフィスに戻ってきており、普及に懐疑的な見方をしているテナント企業も多い」(地所リアル・賃貸事業グループビル営業部)という。企業はオフィスの集約から分散へ動き、一時利用も含めると賃借面積は増える可能性も考えられる。オフィス需要の大幅な減少につながる要素は少ないと見る向きも多い。

2020/09/04 日刊不動産経済通信

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