≪不動産経済ファンドレビュー≫分譲と表裏一体の関係の中で-首都圏賃貸マンション市場のいま
不動産経済ファンドレビュー

(提供:不動産経済ファンドレビュー)1棟物の収益賃貸マンションや投資用ワンルーム市場は好調を維持している一方で、賃貸マンション市場はエリアによっては需給バランスの悪化から、リーシングに苦労し家賃相場が弱含みという声も聞こえてきている。価格が高騰する中でも好調を維持する分譲マンションマーケットにあって、表裏一体の関係にある首都圏賃貸マンション市場の足元を分析する。


コロナ禍の成約件数は23区の割合が上昇
グロス賃料はピーク時の85~90%程度の水準

 東日本不動産流通機構のデータによると、首都圏における賃貸マンションの成約件数は、分譲マンションの販売価格が上昇した2016~2017年は、約14万件へ成約数が急増。マンションの購入をあきらめて、賃貸マンションを契約する層が増加したと考えられる。しかし、コロナ感染の拡大により人流制限や在宅勤務等が始まった2020年以降は、成約数が急減している。コロナ2年目の2021年からは、23区で成約数が回復傾向に転じているが、郊外部を含む都下・神奈川・埼玉では、まだ成約数の回復傾向は見られていない。エリア別成約数割合でも、コロナ禍の2021~2022年では、回復の早い23区割合が62~63%に上昇、回復の遅い神奈川・埼玉の成約割合が低下している。23区のエリア別成約数推移を見ると、都心はコロナ禍の影響をほとんど受けておらず、利便性の高い城西・城東も影響は少ない一方で、城南・城北で影響が大きくバラつきがある。
 成約賃料単価は、2008年にピークを付け、首都圏平均で9668円/坪だった。その後は、リーマン・ショックで賃料が低下、アベノミクスがスタートした以降も、分譲マンションは販売が好転し価格も上昇したが、賃料は低水準のままで推移、2013~2015年が概ね賃料水準がボトムだった。その後も23区以外は上昇が少なく、特に都下・埼玉・千葉ではコロナ直前までは賃料上昇がまったくなかったが、コロナ禍の2021~2022年にかけては神奈川・埼玉・千葉でも賃料が急上昇しピーク時の賃料水準に回復している。平均では23区がピーク時に若干届いていないが、エリア別では城東・城北は2020年に2008年のピークを上回る水準まで大幅上昇。コロナでの人流制限の影響もあり翌年低下したものの、それでも賃料単価はほぼ回復傾向にある。
ただ、平均成約面積は低下傾向にある。ピークは2005~2008年で、リーマン・ショック後、賃料単価は低下したが、賃貸マンションの面積が回復することはなく、コロナ禍の2021~2022年もさらに面積が低下。2022年は首都圏平均で33.7㎡、全エリアがボトムとなっている。分譲マンション市場だけでなく、賃貸マンション市場においても、グロスの圧縮傾向が強まっている。23区のみを見ると、もともと狭小面積が多いため、面積の変動は少なめだ。それでも2022年は面積縮小がさらに強まり、実際に城東と城北エリアは最も面積が低下した。
成約平均賃料(グロス賃料)を見ると、ピークは2008年の10万7423円。リーマン・ショック後に下落、それ以降もグロス賃料は低水準を継続している。賃料単価は回復傾向だが、面積圧縮傾向により、グロス賃料はピーク時の85~90%程度の水準にとどまっている。郊外でも2013年以降、平均賃料はボトムの状態が続いており、郊外の賃貸マンション市場はグロス賃料重視の傾向が強まっていることから、弱含みの推移が継続している。
23区も面積圧縮傾向が強いため、グロス賃料は2007~2009年に付けたピーク時の水準には全く届いていない。エリア別では、都心のグロス賃料が12万9804円でピーク時の80%程度と低迷している。もともとリーマン前の賃料水準が高かった都心では、法人需要の減少や購買意欲の高まりによる賃貸ニーズの減少からか、グロス賃料は全体に弱含みで推移している。

利便性と賃料バランス良好なエリアが人気
ウィズコロナ到来で市場の変化に細心の注意

コロナ禍を通してして首都圏賃貸マンションの成約単価はどう変化したのか。トータルブレインがエリア別成約単価について駅徒歩10分以内、築5年以内、20㎡台の1R・1Kに絞って比較、集計した。コロナ前の2018~2019年からコロナ禍の2021~2022年の変動率を見ると、首都圏平均では1万1778円へ3.6%アップしているが、同時期の分譲マンションの価格上昇と比べるとかなり控えめな上昇にとどまっている。もともと賃料水準が高かった23区では、上昇が1.3%と横ばい傾向。一方で、都下の23区に隣接する利便性良好な中央線や京王線を中心とした近郊部の賃料は大幅に上昇。また、神奈川も横浜・川崎の人気エリアや、再開発で利便性が向上した厚木、海老名、相模原といった県央地域でも10%前後の上昇が見られており、コロナによって利便性と賃料バランスの良好な、いわばコストパフォーマンスの良いエリアの人気が高まっている。埼玉・千葉に関しては、利便性の高い人気の近郊部では5%程度の上昇が見られるものの、郊外部では上昇が少なく、コロナによってライフスタイルの変化や生活コストの上昇が起こり、ユーザーが賃貸住宅に対しても、より利便性の割に賃料が割安なことを重視する傾向が強まっている。
コロナ禍はマンションマーケットに少なからず影響を与えた。分譲マンション市場に関しては、都心・好立地人気がますます高まり、急激な価格上昇につながったが、その一方で価格高騰についていけない一般層が、都心へのアクセスは良好な割に割安な均衡・郊外のエリアを検討するなど、“賃貸脱出・持ち家志向”が強まった。「買えないならば賃貸のままで十分」という価値観が動いた。その点、プラスの影響を受けたと考えられる。しかし賃貸マンション市場にとっては、その“持ち家志向”が逆風となったことは否めない。コロナでプラスの影響を受けたのは、これまで利便性の割に賃料が割安だったエリアや再開発等で評価が上昇したエリア、逆にマイナスの影響があったのは沿線・駅力よりも人気先行で賃料水準が高かった城南エリアや、法人需要に支えられた高家賃エリアだ。トータルブレインの杉原禎之副社長は「コロナで生活コストが急上昇しているため、ユーザーが賃貸住宅においても、よりシビアに利便性と家賃バランス等のコストパフォーマンスを判断する傾向が強まっている」と分析する。
5月からはコロナも第5類に分類され、人流制限も解除。リモートから出社に切り替える企業も増加する等、日常の生活が戻りつつある。企業の採用活動も再び活発化し、優秀な社員確保のため、23区等の好立地の寮・社宅需要の回復も期待されている。ここまでコロナがプラスに働いたのは分譲市場だった。分譲と賃貸は表裏一体の関係であり、どちらの市場も、今後、潮目を迎えることが予想される。本格的なウィズコロナの到来で、再び市場はどう変化してくのか。今後の賃貸市場の動きに細心の注意を払う必要がありそうだ。

不動産経済ファンドレビュー
コメントをどうぞ
最新情報はTwitterにて!

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめ記事